『流行通信』から『VOGUEJAPAN』『Harper’s BAZAAR』『FIGARO japon』『SPUR』などモード誌の編集を35年にわたって手がけてきたエディターの平工京子さんが、ラグジュアリーブランドからファストファッションまで、ファッション業界の社会貢献とサステイナブルな取り組みについて紹介します。

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写真提供:COS

2020年からすべてのコレクションで、サステイナブルなコットンを使用することを決めたCOS。展示会で見たサンプルには、このタグが付けられていました。

 
お問い合わせ先/COS 銀座店 tel. 03-3538-3360

サステイナブルなコットンといえば、パタゴニアステラ・マッカートニー
が積極的に採用しているオーガニックコットンがまず挙げられますが、最近、BCIと呼ばれるコットンに関心が集まっています。

 

そもそも、コットンはファッション界で最も多く使われている素材。ところが、一般的な栽培方法には、それを知れば誰もが驚くような多くの問題点がありました。

綿花は食品ではないため規制が少なく、生産の過程で膨大な量の農薬が使用されています。たとえば、アメリカでは全農薬の約10%が農地全体の約1%に過ぎないコットン栽培に費やされています(*注1)

インドでは殺虫剤使用全体の50%をコットン栽培が占めており、農家の人々の健康に悪影響を与えています(*注2)

綿花の栽培と綿製品の生産には大量の水が消費されるという問題もあります。たとえば、ジーンズ1本分の綿を作るのに、ひと1人が飲む水10年分に相当する量が使われていると国連のアナリストが指摘しています(*注3)

(*注1)出典:パタゴニア公式HP
(*注2)出典:ステラ・マッカートニー
(*注3)出典:WWD


オーガニック農法は、農薬を使わずに栽培され、水の使用量も少なく、土質が改良されるメリットもあります。ところが知識や技術が必要な上、時間がかかりコストの面でも割高です。栽培できる量も少なく、需要のすべてをカバーすることはできません。「オーガニックコットン」とは、栽培農家からメーカーまで認証団体の定めた基準を遵守し、たとえるなら野菜に生産者の名前が明記されたものがあるように、出自が明確になっているもの。高い価値のあるベストなコットンとして認証タグが付与されています。

一方、「BCI/ベター・コットン・イニシアティブ(Better Cotton Initiative)」は、厳しい規制をクリアした最上級[Best]のオーガニックコットンに対し、基準を少し緩くしても状況を改善し、より良い[Better]なコットンにしようという取り組み。タグが付くなどの認証のシステムはないものの、農薬や水を過剰に使用しないなど、環境や労働条件の最低限の基準を満たした農家で生産され、世界中の綿花栽培農家がその方法を共有することで持続性を高めようとしているものです。

「BCI」はスウェーデンに拠点を置く国際NGO団体の名称(*注1)でもあり、2019年で10周年を迎えました。創立に際してはH&M、イケア、アディダス、GAPなどの企業の協力があり、現在でもこれらの企業が「BCI」調達量の上位を占めています(*注2)。最新のデータによると、参加しているブランドや小売業者は、バーバリー、ラルフ・ローレン、ナイキ、リーバイスなど世界中で162を数えます(*注3)

(*注1)出典:REAL OF COTTON 綿の真実
(*注2)出典:BCI公式ホームページ
(*注3)出典:BCI公式ホームページ


ZARAを運営するINDITEXも2011年からのメンバー。2025年までにBCIを含め、100%サステイナブルなコットンに切り替えることを目標に掲げています。
出典:INDITEX公式ホームページ

写真提供:ユニクロ

日本からはユニクロ・GUを展開するファーストリテイリングを始め、11社が参加。ファーストリテイリングは、デニム生地の色落ちなどの加工工程で使う水の量を最大99%削減する技術を開発した他、浄化、再利用にも取り組んでいます。
出典:UNIQLO公式ホームページ


栽培・製造過程にさまざまな問題があった従来のコットンは、それを身につける人への悪影響が懸念されているほど。栽培農家も生地のメーカーも、製品化して販売するブランドや小売業者も、その事実を深刻にうけとめて最善を尽くす努力が始まっています。私たちが綿製品を買う時は、サステイナブルで、より良いコットンが使われている物を選び、買ったものはできるだけ長く使う。そういう意識を持つ時代になってきていると思います。
 

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