お正月に歩いた静かで美しいセーヌ川。水位が岸辺ギリギリまで上がっていて幻想的。

「ね、どうしても今日はブティックに行きたくないの。休んじゃおうかな。否、急に休んでガタガタ言われるのも癪に障るから、いっその事、会社を辞めてしまおうか。嗚呼、何だか情けなくて涙が出てきた!」

元旦の朝、散々駄々をこねて彼を困らせる私。これは明らかに八つ当たりというものではないか。分かっているのに勢いは止まらない。新年の挨拶もしたくない。おめでとうなんて云うもんか!だって全然おめでたい気分じゃないんだから。

クリスマスから年末にかけての繁忙期を、全てのエネルギーを懸けてやり遂げた安心感から派生したバーンアウトなのか、ラストスパートに元旦の早朝出勤は心身に酷く堪えた。

「Ohh…mon bébé est fatigué ! 疲れているんだね。こっちにおいで!抱っこしてあげる。僕のエネルギーを君にあげるから。」
オニババ化した私に、いつもと変わらず優しい彼の器の大きさを尊敬する。

宥め賺され、結局は出勤したものの、膨れっ面で新年の挨拶をする私に、マダムと同僚のセシルがキョトンとしている。日中は顔馴染みのお客様と話すうちに、一時的に気分が上向きになったものの、新年から大人気ない立居振舞をした自分に嫌気がさし、どんどん自虐的になる。最悪の気分で退社時間を迎えた私にマダムが言った。

「ね、Hiroko ! 来週時間を取ってゆっくり話しましょうか。ピエールにも言ったのよ!Hirokoがハッピーじゃないみたいなの。これは一大事よって。あなたが人一倍頑張っている事は分かっているの。会社として出来る限りの事をしたいのよ。その為にも、話しましょう。話さなくちゃダメ。一人で苦しまないでね。」

一月のタルトレットはマンダリンとココナッツのマリアージュ。優しく繊細な仕上がり。

翌日の二日、いつもより早く出勤して開店前のブティックにマダムとセシルを見付ける。「Bonne année Sylvie et Cécile ! シルヴィー、セシル、明けましておめでとう!」
キョトンとする二人、「Hiroko!昨日新年の挨拶したのを覚えてないの?」

あのね、私、今日もう一度新年をやり直す事にしたの。昨日は膨れっ面で一日を過ごしたでしょ。大人気なかったね、私。ごめんなさい。
謝罪する私に二人が微笑む。それじゃあもう一度、新年の挨拶から始めましょうか。そうよね、思い立ったら何度だって一年を仕切り直しても良いのよ。いっせーのーで!

「今年の一年が、愛と友情、そして健康に満ち溢れたものでありますように!」

家に帰ると、彼が妙に悪戯っぽい笑顔で出迎えてくれた。―Et alors ? で?
私は答えず、彼の胸に飛び込み耳元で囁く。―Bonne année mon amour! 遅ればせながら、明けましておめでとう。