イタリアについての章では、共働きでないと生計が維持しにくいのに政府の補助はほとんどなく、拡大家族に大きく依存している厳しい状況が明らかにされます。職場にすら祖父母頼みのカルチャーがあり、現役世代は長時間労働を求められる。親族に力を貸してもらえない場合は母親の負担が増えさらに疲弊している様子がわかります。

 

ただ、外注することへの罪悪感は他国より薄い……というか外注しないとやっていられないという様相で、経済的に可能ならメイドさん(=移民家事労働者)を雇うという選択肢があります。このメイドさんに外注する選択肢がある点以外は、日本は比較的イタリアに近いように思いました。

最後に筆者の出身である米国の現状が取り上げられます。同国では、政府のサポートや両立支援策がほぼなく、仕事と育児の両立は個々人で解決しないといけないものとして捉えられているようです。「自分たちで何とかすべき」という感覚が強く、たまたま環境が整っていれば「自分はラッキー」うまくいかなければ「自分のせい」と考える傾向が強いとのこと。ザ・新自由主義ということなのでしょうが、今後はますます、恵まれている人以外は育児と仕事の両立がほぼ不可能になっていきそうです。

私は今シンガポールと日本の子育ての状況を調査しているのですが、先行研究を調べていると、非アジア出身の研究者などに全く異なる文化を「アジア」「儒教的」などと一括りにされていることがあり違和感を覚えます。でも、この“Making Motherhood Work”を読んで、私自身も、なんとなく「欧米/西欧系は日本よりも進んでいるのだろう」とざっくり考えていたけれど、国により政策にもそのコンテクストにも大きな違いがあることがよくわかりました。

米国は日本より先を行っていると思いがちですが、それは一部のグローバル企業や、たまたま支援ネットワークをうまく掴めた人の話なのだなということを痛感します。この本の著者は、それでも希望を捨てずに、できている国があるのだから米国だって変われるはずと、政策的議論の必要性を訴えています。日本も医療などは充実しているものの、イタリアと米国の状況の中には日本も同じだなと感じる記述も多く、他国の成功・失敗両面から学んでいくことが必要だと思います。

前回記事「日本の今、そこにある「貧困」を3冊の書籍から考える」はこちら>>

 
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