言葉は過剰に意味づけされ、曲解されていく


「人間は自分の聞きたいところしか聞いてないし、聞いてもわからないところは、自分で勝手に埋めているんですね。言葉を発するほうは、すごく不完全なものしか発することができないし、受け取るほうは、それを過剰に膨らませて受け取らないとわかった気がしないんですよ。
言葉ってそういうものなんです」

京極先生のこの一言を読んで「たしかに!」と思ったのは、筆者の既婚の知人が実家で親と同居をはじめたという話を聞き、「実家をリフォームして二世代同居をはじめたんだな」と勝手に思っていたところ、後に「実は離婚して実家に戻った」と聞いてびっくりしたことがありました。まさに、自分の都合のいいように情報を補完しまくっていたのです……。

 

また、SNSでの発言が炎上することについても、京極先生の話を聞くとさもありなんと思えます。

 

「今、書いてすぐその場でパーッとアップしちゃいますね。考えなしに。しかもそれ、一度にたくさんの人が読みます。一斉に大量の解釈がなされるわけですね。
これ、炎上しないわけがないですよ」


語彙が人生を豊かにする


言葉は欠けているし、相手に伝わったと思っても、たいてい自分のことはわか
ってもらえていないーー。
こんな風に書くとちょっとさみしい感じがするかもしれませんが、言葉の持つ特性を正しく理解して使おうと思えばこそ、肝に銘じて置く必要がある気がします。
そして京極先生は、これからの時代を生きる若者たちに、こんなアドバイスをしていました。

「“愛”と“夢”と“絆”ででき上がっている人生ってどうですか。この手の言葉は、具体的な対象を持たないうえにイメージが先行するので、目眩しには最適です。たった一文字、“愛”という字だけで、どれだけ多くの日本語がくらまされてしまったか。
また、それを使わないで表現しようと努力することによって、どれだけの語彙が培われることか。語彙は、その数だけ世界をつくってくれるんです。たくさんの言葉を知って、その言葉を使いこなすことが、どれだけ豊かな人生をつくってくれるか、それははかり知れないことでしょう」

耳障りのいい言葉やなんとなくのイメージ、またよく使われているからといった安易な理由で言葉を選んでいては、語彙力は増えません。それこそ、AIに取って代わられても仕方ないですよね。
自分を正しく表現することは、自分の生きたい人生を生きることにもつながる……。そんな風に思えた一冊でした。
親子でも十分楽しめるので、新年度を前に「語彙力」を増やすべく、お手にとってみてはいかがでしょうか。

 

『地獄の楽しみ方 17 歳の特別教室』
著者:京極夏彦(講談社/税込1320円)


学校では教えてくれない本物の知恵を伝える「17 歳の特別教室」シリーズ第 5弾。人気作家の京極夏彦さんが10代に向けて行った講演で構成された本書のテーマは、「言葉」。作家として多くの物語を紡いできた京極さんの視点から、言葉の持つ危うさや不正確さ、さらに言葉を使ってどのように人生を楽しく生き抜くかも教えてくれる一冊です。


構成/小泉なつみ
 
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