スタイリストの先駆者が提案するきものの素材選び
フィガロジャポン誌で、きものの楽しみを発信し続けているスタイリスト・原由美子さんのきもの書籍第二弾、『原由美子のきもの上手』が刊行されました。きものの豊富な知識だけでなく、洋服の造詣も深い原さんならではのスタイリングは見ごたえたっぷり。前著『原由美子のきもの暦』ではきものを季節ごとに提案していましたが、今回の本は「染」と「織」というきものの素材を軸にしてまとめられています。
「きものは誰もが同じ『型』を着るものだからこそ、デザインありきの洋服とはその選び方からして異なります。まず染か織かの素材を選び、色や文様を考え、最後に帯を決める―――だからこそ、その素材を知って親しむことが大切」という原さん。
フォーマルな場で活躍しそうな訪問着や付け下げ、もっと日常的に楽しみたい小紋や紬から木綿のきものまで、宮沢りえさんや東野翠れんさんなどのモデルカットも取り混ぜながら紹介した1冊です。
今回、その中から「織」のスタイルをご紹介します。
絣のお召×洛風林 ウクライナ繍花文の帯
きものの絣模様と帯の色を合わせて。
織のきものというと、現在ではすぐ紬が浮かぶようですが、昭和の半ば頃までよく着られていたのがお召。織のきものですが、紬よりは格上のあらたまった外出着として重宝されていました。糸の段階で精練し、先染めした後に織り上げるためシボがあり、シャリ感のある独特の風合いが生じます。産地によって、いろいろな種類がありますが、現在もよく着られているのは、矢絣で知られる絣お召や、紋お召でしょうか。
袴姿の女学生の定番きものだったので、白と紫の矢絣のお召は、すぐイメージが浮かぶかもしれません。
この絣お召は、紫と渋い緑に明るい黄が配されることで、リズミカルな明るさが 洋服の感覚に通じます。
昭和の時代によそゆききものだったお召ですが、これは気取らずに楽しんで着たいもの。濃い茶色地に、絣と同色で洋風更紗の花模様が織られた帯をしめると、統一感のある色調のため、すっきり見えるでしょう。
春らしい華やかさもあるので、お花見をかねての食事会などにふさわしいかもしれません。濃い地色に季節の花がくっきり染められた染め帯を合わせれば、クラシックな印象に変わります。
近江の木綿×ヨーロッパ更紗の名古屋帯
1枚目に選びたい素朴な木綿の紺絣
理想的な初めてのきものは何かと考えると、木綿のきものがすぐ浮かびます。浴衣で着慣れるのも悪くはないのですが、夏限定ですし、下着や半衿をつけないので、どうしても手抜きになりがちです。木綿のきものも、半幅帯で気楽に着られますが、真夏以外のオールシーズン、下着や上に羽織るものを調節して着続けられるところがポイントです。
なにしろ木綿は、ちょっと前の時代には老若男女の日常着として、季節を問わず着られていたのです。紺に白の絣柄のものを1枚選んで心地よい季節のお休みの日などに、ともかく着て生活することを、おすすめします。はじめは半幅帯で、できれば掃除や洗濯、台所仕事を。洗濯機での洗濯なら、タスキがけすればなんとかなります。最初は楽しもうとか考えずに、着慣れるためと覚悟して。少しでも早く着付けと身のこなしを自分のものにするためには、それが一番の方法です。
『原由美子のきもの上手 染と織』
2000円(税別)/CCCメディアハウス
帯合わせ、小物の色選び、季節を楽しむ洒落小紋、モダンに着こなす江戸小紋、清楚で粋な大島紬、デニム感覚で纏う木綿のきもの、一本は持っておきたい黒い帯……。「フィガロジャポン」の好評連載、第2弾。
原由美子/はらゆみこ
慶応義塾大学文学部仏文学科卒業後、1970年に『アンアン』創刊に参加。仏・ELLEページの翻訳スタッフを経て1972年よりスタイリストの仕事を始める。 以後『婦人公論』、『クロワッサン』、『エルジャポン』、『マリ・クレール日本版』、『フィガロジャポン』、『和樂』など数多くの雑誌のファッションページに携わる。着物のスタイリングでも雑誌や新聞などの執筆、ファッションディレクターとしても活躍。著書に『きもの着ます。』(文化出版局)、『原由美子の仕事1970↓』(ブックマン社)、『フィガロブックス 原由美子のきもの暦』(CCCメディアハウス)などがある。
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