レジ打ちの女の子が教育を受けて首相になれる国


昨年末は、史上最年少34歳の女性サンナ・マリンさんが首相になったことも話題のフィンランドですが、実は女性の首相はすでに3人目。現在は国会議員の46%が女性で、連立政権に参加する党の党首は、首相の党以外は全てが女性、うち3人が30代前半です。

「彼女が首相になったことに、性別は何の影響もしていないと思います。そもそも彼女は、ここ数年党のナンバー2だったので、自然の成り行きという感じ。むしろフィンランド人は、世界から注目が集まったことを驚いています。普段は『この国ってEUだったっけ?』という扱いのフランスが、いまや『フィンランドの女性首相の話題でもちきり!』だと聞き、喜んでましたね(笑)。ただフィンランドが推し進めてきた【男女平等】を、世界に実証できた、それを誇らしく思ってはいますね。もちろん彼女には、国内に山積みの問題を解決し、頑張ってくれることの方が大事ですが」

若くて優秀な女性たちが国のトップに並ぶことに、恐怖を感じている男性がいることも否定はできない、と堀内さん。でもそれを人前で口にすれば、周囲は「なんという時代錯誤」と眉をしかめる。そうした社会的なコンセンサスができているといいます。

「エストニアの内相が『レジ係が首相になった』と発言していましたよね。それに対し、首相自身はツイッターで、『フィンランドのことを凄く誇りに思う、なぜならレジ打ちの女の子が教育を受けて首相にまでなれるのだから』と応じていました。フィンランド人が大事に思っているのは、まさにここ。彼女は、同性カップルを両親に持ち、貧困というマイナス環境にも打ち勝ってここまで来たわけで、それは福祉や教育が公正になされているということなんです。日本メディアの中には<美人><若い>という点ばかり言及するところもありますが、フィンランド人からすると『は?』という感じだと思いますよ」


「与えられたチャンスを必ずモノにする」フィンランドの女性たち


労働人口が減りつづけ「女性がもっと活用されるべき」と言われて久しい日本。フィンランドのあり方に学ぶところはとても大きいように思います。

「『社会の平等と公正を守らなければいけない』という意識が高いのは、人口が少ないから。ひとりひとりの力を底上げし集結しなければ、国の繁栄はありえません。人口が少ないから、フットワークが軽い、変えやすいという部分もありますよね。でも同時に、行動に移す力、チャレンジする意思はすごくあるし、上手くいかなければ、また別のやり方をためせばいいという、失敗に対する社会の寛容さもあります。元々貧しい国だったから、メンツのような変なこだわりもなく、まとまることができるのかもしれません」

もちろんそうした変化には、社会だけでなく、個人の意識も大きく影響しています。両国の女性のあり方を見てきた堀内さんが日本人女性に感じるのは、「女性だから」「妻だから」「母親だから」という役割に強く縛られ、そこから自由になれないメンタリティだといいます。

「私は仕事の時でも、普通にノーメイクなこともあるんですが、日本の友達に『信じられない、それって失礼だよ』と言われることも。誰に対して失礼なの?と思うんですが(笑)。もちろん楽しみとしての化粧は、フィンランド人もするんですよ。でもそれも自分のしたいようにすればいいんじゃない?って。女性だからキレイに、妻だから仕事も家事もちゃんと、母親だから子供のためにあれもこれもーー日本人女性には“やらなきゃ”と思うものがあまりに多すぎるし、同時にそれを他者にも強いるような視線があるんですよね。「なんであの人ああなの?」なんて言って。もっと楽になればいいのになと思います」

フィンランドを訪れたある日本企業の女性幹部候補生が「男女平等を実現するにはどうしたらいいですか?」と尋ねると、当地の女性の答えは「与えられたチャンスを必ずモノにすること」だったらしい。最近話題のインポスター症候群(自分の評価や成功を内面的に肯定できず、自分はそれに対しないと過小評価する傾向)は、ただ社会や環境に刷り込まれたものかもしれないと、堀内さんは考えている。

「フィンランドでは、学校の成績は女性の方が男性より遥かに良いという統計も出ていて、女性が男性より劣ってるとはそもそも思っていません。私が通っていた大学の女性学長は、よく言われる“女性は理系が苦手”というのも、母親が繰り返す“数学が苦手”という言葉が刷り込まれてしまうのだと言っていました。もし母親が『ITやエンジニアリングなどの幅広い分野にもすすめる』と勇気づければ、娘はすんなりとそちらに進んでいけると。

実はフィンランド人は男女ともに褒められることが苦手で、持ち上げられると『……』となってしまうんです(笑)。でも仕事上のポジションをオファーされて『いや、私ごときが』なんてことを言う人はいません。チャンスはキャリアを認められた人にしか訪れないものだし、やれるかどうかはやってみないとわからない。ただ自信を持って引き受けるためには、環境を整えることも大事ですよね。“仕事に24時間捧げるべき”という今の状況では、オファーされても『それはちょっと…』と思ってしまうのは当たり前。そこを変えてゆくことは、日本の社会全体の幸せのためにもいいことなんじゃないかなと思います」

 

<書籍紹介>
『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』

堀内 都喜子 著 ポプラ社

世界最年少34歳の女性首相誕生で注目のフィンランド!
有休消化100%、1人あたりのGDP日本の1.25倍、在宅勤務3割、夏休みは1カ月。2年連続で幸福度1位となったフィンランドは、仕事も休みも大切にする。ヘルシンキ市は、ヨーロッパのシリコンバレーと呼ばれる一方で、2019年にワークライフバランスで世界1位となった。

効率よく働くためにもしっかり休むフィンランド人は、仕事も、家庭も、趣味も、勉強も、なんにでも貪欲。でも、睡眠は7時間半以上。やりたいことをやりつつも、「ゆとり」のあるフィンランド流の働き方&生き方の秘訣を紐解きます。

取材・文/渥美志保
撮影・構成/川端里恵(編集部)
 
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