こんなに色っぽい妻夫木聡を、今まで見たことなかった――
直木賞作家・島本理生の同名小説を原作とした映画『Red』。今作で妻夫木さんが演じるのは、建築家の鞍田秋彦。一流商社勤務の夫と可愛い娘に囲まれ、何不自由なく暮らしていたはずの村主塔子(夏帆)は、かつて愛した鞍田との10年ぶりの再会を機に再び愛し合い、彼を通して“本当の自分”に目覚めていきます。
男を破滅させる運命の女が“ファム・ファタール”なら、塔子を惹きつけてやまない鞍田の物憂げな佇まいは、まさに“オム・ファタール”。私たちがよく知る爽やかで親しみやすい妻夫木さんとはまったく別の姿がスクリーンに焼きつけられています。
妻夫木聡 1980年生まれ、福岡県出身。2001年の『ウォーターボーイズ』で映画初主演。同作にて第25回日本アカデミー賞新人俳優賞と優秀主演男優賞を受賞。その後、2003年の『ジョゼと虎と魚たち』で第77回キネマ旬報ベスト・テン主演男優賞、2010年『悪人』で第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、2016年『怒り』で第40回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞とこれまで数々の賞に輝き、今や日本映画界に欠かせない存在に。本作以降は『一度死んでみた』『一度も撃ってません』『浅田家!』が待機中。
撮影中は、ずっと塔子のことだけを想っていた
「撮影中は本当に塔子のことしか頭になかったから、あのとき何を考えていたとか、何も出てこないんです。監督からも細かいオーダーは一切なくて。三島(有紀子)監督はとにかく役として生きなければオッケーを出さない。だから僕もどう鞍田として生きるかしか考えていなくて。そうしたら自然と塔子のことだけを想うようになっていました」
溺れるようにして求め合う塔子と鞍田。ふたりの姿は、妻夫木さんにはどう映ったのでしょうか。
「本当に愛が深くなると、どんなことも愛せるようになるじゃないですか。相手の全部を知りたいし、全部を自分の中に取り入れたくなる。誰かと話しているのを見て嫉妬している自分さえいとしく感じるような、そういう境地に鞍田も至っていたんでしょうね。宿命としか言いようがない。出逢うべくして出逢ったふたりだったんだろうなって思います」
劇中には、美しいラブシーンが数々登場します。個人的に最も心に残ったのは、家庭をつくることが叶わない鞍田と塔子がふたりで家の模型をつくるシーン。愛の言葉を交わすわけでも、指一本ふれるわけでもない。けれども、なぜかいちばんふたりが幸せのように感じるひとときです。
「僕自身も出来上がった作品を観て、あのシーンには幸福感をもらいました。それはきっと、お互いが同じ想いで何かを一緒につくりあげること自体が幸せだから。ずっと好きな人と一緒にいても、そういうチャンスって少ないと思うんです。演じているときは、模型をつくるのに一生懸命だから、ああ幸せだっていうのは意外とないんですけど(笑)。出来上がってみたら、確かにいちばん幸せな瞬間だったのかもしれないと思いました」
良いラブシーンに必要なのは、本物の感情
そして最も観客を陶酔させるであろうシーンが、塔子と鞍田のベッドシーン。肌を重ね合うふたりの秘め事には、モラルに反した背徳感や昂りよりも、このまま一生こうして閉じ込めておきたいような神聖さと繊細さが溢れていました。
「台本に『塔子のホクロに沿って辿っていく』みたいなト書きがあって、それはすごく印象的でした。きっとそのホクロさえも鞍田はいとしく感じていたということなんでしょうね」
妻夫木さんはこれまでも数多くの名作で、心に残るラブシーンを演じ続けてきました。そんな妻夫木さんだからこそ聞いてみたかった、「良いラブシーンとは何か」。その問いに、妻夫木さんは、まっすぐこんな答えを返してくれました。
「見せようとしないことがいちばん大事なのかなって。ベッドシーンも、ひとつのお芝居。そこにテクニックというものは、僕はいらないんじゃないかと思うんです。単純に、愛し合っている中で、ふれたかったらふれるし、キスしたかったらキスする、それを監督に撮ってもらっただけで。こういうアングルだからこんなふうがいいよね、というような作為的なことは絶対やりたくない。じゃないと、愛を感じられないから。作為が入ると、ただ夏帆と妻夫木がベッドシーンやりました、になっちゃうんだろうなって」
『ジョゼと虎と魚たち』『春の雪』『悪人』。銀幕の妻夫木さんを思い出すと、いつもそこには心をとらえて離さないラブシーンがありました。
「『ジョゼ虎』で初めてベッドシーンをやらせてもらったんですけど、ちいちゃん(池脇千鶴)と直接的なことはやっていないんです。ただキスだけで表現をしていて。でも、ご覧になった方はよく『いいベッドシーンだった』と。そんなふうに幸せそうなベッドシーンだったって思ってもらえたのは、僕ら自身の気持ちと気持ちがあそこでちゃんと重なり合ったから。何よりも大事なのは、感情。そこを見失わずに、表現としてやれたらと思っています」
そこまでひと息で語ったあと、妻夫木さんは少し照れ臭そうに微笑みました。
「僕自身、誰かのベッドシーンをあまり見たことがないんでわからないですけどね(笑)。なんだろうな、ベッドシーンと言うと、セックスというひとつの行為を最初から最後まで描いているイメージがあるんです。それがあまり好きじゃなくて。もっと見ていて痛くなるとか、心がぎゅっとするとか、何かを感じてもらえるものであればいいかなと思います。
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