だって、その聖子ちゃんのアイドル全盛期から翻って、時は2020年代。表向きには表現の自由が謳われている現代のアメリカにおいて、すでに名声も絶大なパワーも手に入れている大スターのテイラーでさえもが、まだまだ女性の自由や権利を手に入れるため、戦っているのです。

10代のとき、仕事で性的暴行を受けたけれど怖くて何も言えなかったこと。その後、同じような被害に遭った女性たちのために一大決心をして相手を告訴したこと。それでも、被害者であるはずのテイラーが「女である」という事実ゆえに、被告側の弁護士からは、自分が犯罪者であるかのような扱いを受けたこと。そして、「若くて可愛い女性歌手が政治的意見を述べるべきではない」という世論の中、政治的発言をすることにどれだけの勇気が必要だったかということ。

テイラーの視点から語られるそれらの出来事を通して、ルッキズムや年齢差別、ミソジニー、ダイバーシティにLGBTQなどの、現代におけるあらゆる社会問題が浮き彫りになって行く、とてもよくできたドキュメンタリー映画、「ミス・アメリカーナ」。もちろんタイトルは、「みんなに愛されるいい子ちゃん=ミス・アメリカーナ」を目指していたときのテイラーのことを指し、そしてこれはすべてのアメリカ女性のことを指しているのでしょう。私は、今まではどこか苦手意識があった「フェミニズム」というものを、この映画で初めて「自分ごと」として捉えられるようになった気がします。

そんな中、飛び込んで来た、ヴィクシーこと、ランジェリーブランド「ヴィクトリアズ・シークレット」のセクハラ・パワハラ報道。なんと、ヴィクシーの親会社「L.ブランズ」の最高マーケティング責任者だったエド・ラゼック氏が、モデルや社員たちに長年セクハラ・パワハラを行なっていたことを、アメリカの「ニューヨーク・タイムズ」紙が「地獄の中のエンジェルたち:ヴィクトリアズ・シークレット内部は女性蔑視の世界」という記事ですっぱ抜いたのです。

写真:Shutterstock/アフロ

このショッキングなニュースは、30人以上のモデルたちと社員や仕事関係者たちを取材して書かれたもの。仕事を餌にモデルたちにセクハラ三昧だったエドはあのベラ・ハディッドにも、ショーのフィッティングの際に、「ショーツなんてどうでもいい。彼女の完璧なオッパイを揺らしながらランウェイを歩く姿を放送することが重要なんだ」と言い放ったそう。CEOのレスリー・ウェクスナーは、児童買春組織を牛耳っていたとされ、その後獄中自殺したジェフリー・エプスタインと繋がりがあったことが明るみになっているし、ブランドパワーが凋落した今、このほかも様々な悪事が公にされていきそうな気配。

折しもアメリカは今年11月に、大統領選を控えています。テイラーは2018年10月の中間選挙で、「政治に沈黙を貫く」という業界の暗黙のルールを破り、インスタグラムで民主党支持を公表しています。政治的にかなり保守的なテネシー州在住の彼女が、「女性たちの権利を守りたい」という強い意志を持ち、共和党の大統領に真っ向から立ち向かう行動に出たことは社会的にとても大きな意味があること。その後24時間以内に、オンラインの有権者登録サイトには65000人以上が新規登録し、彼女が持つ若者への絶大な影響力を見せつけたのです。

「グリッターをつけて、この世のダブルスタンダードと戦っていたいの。
ピンクの服を着て政治の話をしてみたいわ。両方好きでもいいじゃない」

「いい子ちゃん」をやめて、声を上げ始めたテイラー。

「今でも欲しいものは、繊細な心とペンと、素直な心」

彼女の不器用でまっすぐな生き方。それは一度徹底的に破壊された「自我」を取り戻して、自分らしく生きることを恐れない強さを手に入れたから貫けるもの。以前聖子ちゃんの記事で書いた「ダイヤモンドは傷つかない」という、真のスター性と芯の強さを、私はテイラーからも感じました。

ちなみに、この作品が公開された直後に、以前テイラーの体型を批判したコメディアンが、インスタグラムで彼女に対する謝罪コメントを投稿し、それに対してテイラーは「本当にありがとう。このドキュメンタリーのテーマのひとつには、私たちは時間とともに成長して学び、自分に対する捉え方を変化させていけるということなの」とコメントしています。

テイラーの、そして私たち女性の戦いは、続いているのです。

長くなりましたが、すべての女性に観て欲しい名作です。

前回記事「セレブがこぞって投稿! SNSでブームの#dollypartonchallengeって?」はこちら>>

 
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