1989年に創刊、休刊となる2007年までの間に圧倒的なファッション哲学で多くのファンに愛された女性誌「ヴァンテーヌ」。今もなお新鮮に響くヴァンテーヌのおしゃれ哲学が、もし2020年に甦ったとしたら‥? 今回は、ヴァンテ―ヌが生み出した「甘辛バランス」というファッション用語について。大草ディレクターの考える、2020年流の「甘辛バランス」とは?
着こなしのテクニックだけでなく、
女性の多面性を表現した「甘辛バランス」
ヴァンテーヌが生み出した独自のファッション用語は数あれど、”甘辛バランス”ほど浸透し、今も様々な場面で使われ続けている言葉はないかもしれません。当時、そして現在の”甘辛バランス”について大草ディレクターにお話を伺いました。
「当時『ヴァンテーヌ』の編集長が料理上手だったこともあり、料理の味を表現する用語を、あえてファッションに使ったのが”甘辛バランス”のはじまりでした。
甘さの中にほんの少しの塩気が入ることで、より甘さが引き立ってくるーーそんな意味を持ち、元々は“甘さ”をベースにしたスタイル。もちろんその甘さとは、子供っぽい、もしくは過剰に女っぽいということではなく、あくまで「清潔な可愛らしさ」でした。『ヴァンテーヌ』が創刊した当時は、バブル景気で、世の中全体が熱をもったように華やかだった時代。そんななかで、キャリアウーマンでもない20代の女性がテーラードのマニッシュなジャケットを着ていると「女を捨てたの?」と思われるような空気感もありました。ハイヒールが主流のなか、足元はローヒール、そして“辛口スタイル”をうたった提案はかなり斬新だったはず。でも『ヴァンテーヌ』の提案するファッションとは、不特定多数に向けて“モテる”ための服や、いい男の人を引き寄せるための服、という考え方ではなく、家族やパートナー、職場の人や友人など、近しい人との関係性の中で自分が心地よくいられるための着こなしだったのです。
今は、マニッシュな服を女性が気負いなく、より軽やかに着こなせるようになりました。これからは、“辛さ”をベースに、女性らしさや柔らかさの奥行きを足していくーーそんな”辛甘バランス”が主流となっていくのかもしれません」(大草さん)
1991年頃から誌面で「甘辛バランス」の特集が多数組まれるように。服や小物を甘口、辛口と分け、それをバランスよくコーディネートすることで、自分らしいスタイルが実現するというセオリーは、まさに「ヴァンテーヌ」が提案する「考えるおしゃれ」そのものでした。「ヴァンテーヌ」1991年3月号、4月号©ハースト婦人画報社
2020年版“甘辛バランス”①
1本のデニムがあれば、
正統も端正も自分らしく
ブラウス¥21000/ヴェルメイユ パー イエナ(ヴェルメイユ パー イエナ 青山店) デニムパンツ¥23000/アッパーハイツ(ゲストリスト) バッグ¥16800/ヤーキ(ショールーム セッション) サンダル¥52000/ペリーコ(アマン) メガネ¥31000/モスコット(モスコット トウキョウ) ピアス¥23000/モダン ウィーヴィング(エスケーパーズオンライン) リング¥90000/カラットアー(イセタンサローネ 東京ミッドタウン)
クラシカルなブラウスを
「甘い辛い」に味つけるのは小物
「白襟とカフスが目を引くクラシカルなシャツ襟のブラウスには、定番のデニムを合わせて。フェミニンな印象のブラウスを、1歩自分らしく引き寄せてくれます。当時デニムをはくことはあまりなかったのですが、今ではクローゼットの定番。はき慣れた1本なら、簡単に甘さを引き立たせるスパイスとなってくれます。
黒縁の眼鏡や、パールのアクセサリーで甘く整った丸いバランスには、ピンクのスクエアバッグを加えてバランスを崩すことで、おしゃれがグッと印象的になります。四角いフォルムを足すことで、毅然としているのにどこか可愛らしいーーそんな奥行きのある着こなしが叶います」(大草さん)
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