MeTooの動きのきっかけとなったセクハラ事件で、今週大きな動きがありました。米ニューヨークの裁判所の陪審が、米ハリウッドの元大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン被告に対し、性暴力などで有罪評決を下したのです。
前回記事で紹介した映画『スキャンダル』に続いてとなりますが、米国で女性たちが声をあげていったこの一連の流れを知るうえで外せない存在、テイラー・スウィフトが出ている映画のことを今日は取り上げたいと思います。
2015年、テイラーと元ラジオDJのデヴィッド・ミューラーとの間で裁判が起こります。2013年、テイラーはデヴィッドが写真撮影中に体を触ってきたとデヴィッドの上司に訴え、デヴィッドはそのせいでラジオ局を解雇されたとして、彼女に300万ドル(約3億2800万円)の賠償を求め裁判を起こします。
これに対して、テイラーはセクハラを受けたと反訴。「女性が声をあげられることを示したい」と象徴的な意味を込めてたった1ドルの賠償金を求めたことが話題になりました。この裁判は2017年にテイラー側有利の判決が下され、それがMeTooムーブメントの先駆けかつ強力な後押しになったことは間違いないでしょう。
現在Netflixで公開されている『ミス・アメリカーナ』は、テイラー・スウィフトの過去の映像と本人の語りを織り交ぜた映像でこの事件も含めた彼女の人生に迫るもので、個人的にはこれだけのためにNetflixに入ってもいいと思うくらい価値があるドキュメンタリーです。(※以下はネタバレを含みます)
音楽が大好きで自分でどんどん曲を作っていってしまう10代の女の子が、あれよあれよという間に誰もが憧れる女性歌手になっていく様子、大ヒットした曲がどのように彼女のインスピレーションとプロデューサーらとの協業によって完成していくかを知ることができるだけでも十分興味深いのですが、これ以上ないほどの成功と承認を得たテイラーはそこで虚しさを覚えていたことを吐露します。
有名になればなるほど降りかかってくる、悪い意味で忘れがたい出来事や、ネットでの酷評。それを消そうとするかのように数々の記録を打ち立てていくものの、彼女の孤独は深まっていく。家族の病気などを機に人生の優先順位を考え直す中、強まるテレビやSNSでのバッシングを受け、テイラーは1年間メディアから姿を消します。完璧なアイコンのように見える彼女が生身の人間であることを、この映像は思い出させてくれます。
そして、セクハラ裁判等を経て、彼女は蝶が蛹から出てくるかのように進化します。それまでは、「人々に意見を押し付けない、ニコニコして手を振って、ありがとうと言えばいい」という「Nice Girl」を演じていたテイラー。いわばその「Nice Girl」としての最高峰の評価を受けた先に待ち構えていた空虚感とバックラッシュに、彼女は「Nice Girl」であることを止め、社会的な問題について何かを変えるため、政治的発言をする決意をします。
その決意までの葛藤、家族や仲間との議論、行動に移すときの緊張感、それがもたらした帰結と、それがまた曲作りに反映されていく様子……。これらをすべてカメラが収めています。最後は、まだまだ女性にとって、そして様々なマイノリティーや困難を抱える人にとって厳しい社会にありながら、テイラーとともに歩める未来は希望にあふれると感じさせてくれる終わり方になっています。
テイラー・スウィフトのファンではなくても、十分に楽しめ、ファンになってしまう。また現在の米国の政治や女性の見られ方について知るうえでとても貴重な映像で、Netflixの回し者ではありませんが、ぜひ多くの人に見てもらえたらと思います。
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