オスカーでカズ・ヒロさんがメイク・ヘアスタイリング賞を受賞したことで話題になりましたが、日本では今週21日に公開する映画『スキャンダル(原題:Bumbshell)』は、もう何回か観たいくらいおススメの映画です。

映画『スキャンダル』より。二度目のオスカーに輝いたカズ・ヒロ氏は、シャーリーズ・セロン(左)を骨格も顔立ちもまるで違うメーガン・ケリーに見事変身させてみせた。 写真:Everett Collection/アフロ

2016年、FOXのキャスターだったグレッチェン・カールソンがセクシャルハラスメントに対する声をあげました。私はリアルタイムでツイッターなどをみていて、固唾を飲んで行く末を見守っていましたが、本作はそのときの実話をもとに、架空の人物も織り交ぜながら、関係者にあったであろう葛藤を描き出している映画です。

 

FOXニュースというと、ばりばりの保守系のテレビ局で、その社内から女性が反旗を翻すというのはおそらく本当に勇気の要る行動だったと思います。MeTooのムーブメントは、2017年に映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによるセクシャルハラスメントの告発から広がっていますが、この流れの前にはグレッチェン・カールソンの功績も大きかったでしょう。

映画は手に汗握る展開で、改めて声をあげてくれたグレッチェン・カールソン、そしてその役を演じてくれたニコール・キッドマンに感謝したくなりました。そして、本作の実質的な主役のモデルになったメーガン・ケリー、メーガンを見事に演じてプロデュースも手掛けたシャーリーズ・セロンの行動も本当にかっこいいです。

ただし、この世界が日本とは関係ないと思ったら大間違い。本作を観ていると、伊藤詩織さんの事件についても、同じテレビ局ということで男性側には背景に同じような発想があったのではないかと考えさせられました。

また、ハラスメントの事件そのものもさることながら、テレビ局が女性キャスターにとにかく「見た目の良さ」を求めることや、女性たちの向上心や野心ゆえに声をあげることをためらったりお互いに協力をし損ねたりする様子は、決して他人事ではありません。

『スキャンダル』LAプレミアより。左から、ことの発端となるグレッチェン・カールソンを演じたニコール・キッドマン、新人キャスターのケイラ・ポスピシルを演じアカデミー助演女優賞にノミネートされたマーゴット・ロビー。売れっ子キャスターのメーガン・ケリー役で主演女優賞にノミネートされたシャーリーズ・セロンは本作のプロデューサーも務めている。 写真:REX/アフロ

そして、もう一つ問題意識を感じたのは、日本のマスコミの状況についてです。私は普段FOXはほとんど見ませんが、BBCやCNNを見ていると、キャスターたちは男性女性とかかわらず知性と胆力を兼ね備え、相手にどんどん切り込んでいきます。

対して、日本のテレビの「女子アナ」という役割はどうか。小島慶子さんが著書『足をどかしてくれませんか。-メディアは女たちの声を届けているか』 『さよなら! ハラスメント』などの中で書かれていますが、男性の横に座ってニコニコして相槌を打つ、ときにいじられ、それをむしろうまく使ってタレント化する……。

それもそのような枠にはまらざるをえなくてやっているのだとは思いますが、本当は優秀であろう彼女たちにも、この映画の中の目が覚めるように美しくそしてカッコいい女性たちを見てもらいたいと勝手ながら思うのでした。

オスカー受賞後にカズ・ヒロさんが日本について「I got tired of this culture, too submissive, and so hard to make a dream come true.( 周りに合わせ従順であることを強要する日本の文化の中で夢を叶えるのは難しく、そんな文化の中で疲弊してしまった)」と発言したのも示唆的です。「女性のほうだって女を使っているんだから……」。そのように思う男性たちにも、もちろん観てほしい映画です。

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