――精神面でも変化はありましたか。

40代の頃と比べると心も穏やかになってますね。悟りを開いたみたいな感じでしょうか。
でも40代後半まではまだ恋愛などもしていましたし、それに振り回されることもあって、「こんなこといつまで続くんだろう……」と、暗澹たる気持ちになっていたんです。
恋愛は楽しくても、20代みたいに夜中にタクシーぶっ飛ばして会いに行く、みたいなことが体力的にできない。会いたい気持ちはあっても、明日の自分の体調の方が気になって、「今夜はやめておくか」って(笑)。
そんな風に心と体がちぐはぐでしんどかった40代後半の頃、やっぱり40歳くらいの友だちも「辛い辛い」って言ってたんです。で、その頃は私自身もしんどかったので、「その辛さはこの先も続くよ」って言っちゃったんです。
でも、50代になったら霧が晴れるように心身共に楽になって、人生で息抜きできるような時間がやってきた。
私がアドバイスしたその友人は50になる前に亡くなってしまったんですが、「あともう少し頑張れば、ご褒美みたいな時間を神様がくれるから」って伝えたかったし、この本を読んでもらってそれを感じてほしかったと、今さら思っています。

 

――窪さんは44歳で小説家デビューされています。40代はかなり激動だったのではないでしょうか。

本が出てすぐ、離婚を前提に夫と別居したんです。そのだいぶ後に離婚するんですが、小説を書き始めたのも、息子の学費をなんとか捻出しなければ、と思ったのが最初なんです。
うちの父が自己破産したことで短大を卒業できず、私自身の学業が途切れてしまったこともあり、その反動で、「学校だけは出してあげたい」っていう思いが強かったんですね。
ライターとして仕事はしていましたが、その稼ぎだけでは大学まで行かせることが難しく、もし小説家デビューできたら学費が稼げるかもしれないと思って、40過ぎて賭けに出ました。生活がかかったデビューですから、逼迫度が違いますよ(笑)。