「覚えられない」と「思い出せない」の違い

記憶には、新しいことを覚える「記銘」と、過去に覚えたことを思い出す「想起」の2つのプロセスがあります。

認知症の「覚えられない」は記銘が障害を受けた状態(記銘力障害)で、新しく体験したことを覚えておけなくなります。重い症状の場合、数分前や数秒前のことさえも記憶に留められなくなってしまうほど。
しかし、物忘れの自覚はありません。出来事の記憶が丸ごと消えるため、何度も同じことを聞いたり、食事や外出したことなどを覚えていられなくなったりします。そのせいで、日常生活に支障が出てきます。

一方、中高年にありがちな「思い出せない」は、想起する力が衰えた状態(「想起障害」) です。年齢を重ねれば重ねるほど、記憶の上書きはふえていきますが、そうなると、過去に脳に取りこんだことが想起されにくくなって、「あの人の名前が思い出せない」といった想起障害が起こってくるのです。

物忘れの自覚はありますし、記憶の一部が欠けるだけなので、ヒントを出せば、思い出すことができます。したがって、日常生活に支障はありません。また、認知症のような病状の進行や物忘れ以外の症状が見られることもありません。

 

そして和田さんは、認知症になりやすい要因のひとつとして「遺伝」を挙げる一方で、「生活スタイル」が大きく関与しているといいます。
多くの認知症患者と接する中で、「頭を使っている人のほうが認知症になりにくい」と感じることが多いことから、「社交的で外に出るのが好きで、友人・知人も多く、つねに楽しく語らい合うような生活を続けている人は、認知症になりにくく、孤立して人と関わらない生活を続けている人は、認知症になりやすいということがいえます」とも指摘されていました。

コミュニケーションで頭をフル回転させ、楽しく認知症予防を心がけたいですね。 

 

『「ボケたくない」という病』
著者:和田秀樹(世界文化社/税込1320円)

「ボケずにすむ方法はありませんか」「認知症になると人に迷惑をかけますか」「認知症のサインを教えてください」――。そんなボケに関する基礎知識から、認知症になった後に必要な手続きといった超実践的な情報、さらにはボケを遅らせる対策まで、ボケを恐れないための秘訣が詰まった一冊です。
 


構成/小泉なつみ

第1回「「ボケたら不幸」は思い込み?認知症のプロが語る「正しい老い方」」はこちら>>

 
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