いま、パリのECでは何が売れているのでしょうか?
そこにあるのは、数週間後の東京の、日本の、姿なのでしょうか。
前回の記事「新型コロナに対峙するハイブランドの動き」では、メジャーなファッションブランドの動きが中心でしたが、今回は現地のレストランやライブハウスにどのような動きが出ているのか、日本の緊急事態宣言とパリのロックダウンの違いについて。
パリ在住の起業家から、現地レポートの第二弾です。

写真:Shutterstock

4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本政府は緊急事態宣言を7都府県に発令しました。緊急事態宣言はGWが終わる5月6日までとして、政府はそれまでに現在の危機的状況を脱却しようとしています。
日本より感染拡大の進んだヨーロッパ各国ではロックダウンと呼ばれる、日本よりも厳しく、人の移動を制限する政策がとられています。

ロックダウンによって人々は店舗での買い物を避け、通販サイトでの購入やデリバリーサービスの利用が急速に増えています。
今、ヨーロッパで人々はどのようなものを通販で買っているのか?
どのようなサービスが誕生しているのか?
そして、日本との大きな違いについて紹介したいと思います。

 


マスク、除菌グッズ、体温計以外にも売れているものがたくさんある


各通販サイトの売り上げは増加しており、それに伴ってAmazonは大幅な人員の増強を行いつつ、自身のサイトでは生活必需品の配送を優先するため、一部商品の配送に遅延が出ることをアナウンスしています。
これまで通販を利用していなかった多くの人が通販を利用し始め、この流れはロックダウンの期間が終わっても続くだろうという見込みです。
多くのサイトでは、急激に増えたオーダーにより、大幅な配送の遅延が起きていたり、一時的にオーダーを受け付けないようにしたり、他のサイトへの誘導を促したりしているものもあります。

まず、最初に売り上げが伸びたのは、新型コロナウイルス対策用の体温計、手の消毒ジェル、マスク、トイレットペーパーなどです。
そして、普段のスーパーマーケットでの生活必需品の買い物も通販化する流れが加速しています。
大手スーパーマーケットチェーンCarrefourの通販売り上げは、ロックダウン後にイタリアで2倍の売り上げになったそうです。同社はECサイトの使い方がわからない高齢者を対象に、電話での注文受付も開始しました。
同社はよく購入される商品を定期的に配送する、サブスクリプションサービスも検討しはじめているそうです。
スペインの大手デパートEl Corte Inglésは、大量の食糧貯蔵のため大型の冷蔵庫、冷凍庫の売り上げも伸びていると報告しています。
多くの家庭が、普段よりも多くの自炊をしなければならないため、調理器具全般の売り上げも伸びていて、なかでも家庭用パン焼き器の売れ行きが好調です。これはパン屋さんでパンを買うことが多いヨーロッパ諸国での特徴といえます。
学校、保育園などがすべて閉鎖されている状態で在宅勤務をしなければならないので、子供が一人で遊べるトランポリン、ジェンガやその他のおもちゃの売り上げが伸びています。
また、それに伴い、自宅学習用のオンライン講座の利用開始が増えたり、参考書などの書籍の注文も増加しています。

在宅勤務による運動不足を懸念して、たくさんのインフルエンサーが自宅でできるエクササイズを公開し、ホームエクササイズ用品がそれに伴い、売れています。
在宅勤務を考えて、デスクやオフィスチェア、ベッドデスクを購入する人も増えており、同時に長時間のデスクワークによる疲労対策のため、家庭用マッサージ機の売り上げも伸びています。
その他、ガーデニング用品、ハンドクリーム、ボディクリームのような体をケアするもの、安眠用の枕、ルームウェアやホワイトノイズマシンの購入も増えており、このストレスフルな状況を少しでも快適に過ごしたい人々の気持ちが現れています。


助け合いで、飲食店・小売業をサポートする動き

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営業停止を命じられたレストラン多くのレストランは、テイクアウトとデリバリーサービスを開始しています。
デリバリーサービスのUber Eatsは初期導入費用を無料化し、レストランへの支払いを週払いから日払いに変更し、苦境に立たされている飲食店業界をサポートしています。
イギリスの Floom は花束のデリバリーサービスですが、新型コロナウイルスの影響で営業できなくなったレストランを顧客にしていた小規模の販売事業者を助けるため、自身のオンラインサイトでオーガニック野菜や果物を詰め合わせたGrocery Boxの販売を始めました。

Smith & Gertrude は普段はワインとチーズを提供するバーですが、近隣カフェのコーヒーやパン屋さんのパンと自社のチーズを組み合わせた朝食セットのデリバリーなどを開始して、街に住む人々を励まし続けています。

Signature Brew はこのコロナショックで最も打撃を受ける、ライブハウス、クラブにあたりますが、彼らのPUBデリバリーサービスはカクテルとスナック、そして店員が選曲したspotifyのプレイリストと音楽の雑談が送られ、家でもクラブ気分が楽しめるユニークなサービスです。


通販売り上げの25%を病院に寄付



パリのレディースブランド バッシュ(ba&sh) は、全ての通販売り上げの25%をフランスの病院に寄付することを発表。メルマガと#dailybash でのSNS投稿を通じて、「ロックダウン状態で健康に過ごすためには?」などのテーマで、瞑想の仕方、ストレッチの仕方、エクササイズ、おすすめの本、音楽などを毎日紹介し、このつらい期間を顧客と一緒に乗り越えて行きたいというメッセージを発信し続けています。

Repetto、amiなどのブランドも売り上げの一部を寄付することを決め、Claudie Pierlotは#HeartHandsのハッシュタグをつけた1投稿につき10ユーロの寄付をするそうです。


パリの出来事は、これから東京で起きること


日本政府が出した緊急事態宣言は7都道府県にのみ適用され、それ以外の地域に対してはこれまで通りの3密を避けた活動自粛要請にとどまっています。

緊急事態宣言が出された都府県は、現在対応を協議中ですが、3密に該当する場所には業務休止要請がかけられ、オフィスワーカーに対してはリモートワークが要請される可能性があります。
また、政府は、公共交通機関の運行は通常通り行い、人の移動を制限する措置は取らないことを決定しました。
これに対し、ヨーロッパ各国に出されているロックダウンは、社会基盤をささえる事業以外のすべての会社には、強制的にすべてリモートワークが命じられます。
私が住むフランスの事例では、1日の移動は半径1km以内、時間は1時間以内と厳格に定められ、外出中は許可証の携帯が義務付けられています。

スーパーに行っても、人と人との距離は1m以上を確保、通販やデリバリーサービスを頼んでも、品物は建物の入り口に置かれた状態で放置され、連絡を受けた購入者が置いてある品物を取りに行かなければなりません。政府はさらに、配達物の受け取り後もしっかり手洗いすることを呼びかけています。

筆者の住むフランスでは、ロックダウンが開始して3週間が過ぎました。ロックダウン開始時に6,800人だった感染者数は4月9日現在、112,000人を超えています。3週間、全ての国民がロックダウンの厳しい制約を受け入れながら生活しても、まだ感染者の増加は止まっていません。
ほんの数週間前まで当たり前にあった日常が消え、部屋に閉じこもり、数週間前の状態に戻れたら、軽率な行動はしなかったのにとフランス国民全員が後悔しているのが現状です。

日々増えていく死者数に疲れきってしまい、 近隣住民同士のトラブルが増加し、DVが増加、各地で警察と市民の争いがおこることもあります。

日本がその状態を回避できるかは、政府の強制力ではなく、国民の意思に委ねられています。感染拡大は確実に起きていて、これから状況は悪化していく可能性が高いでしょう。個々人が自覚を持った行動をしていけるかどうかで未来の姿は大きく変わります。

日本のみなさんにはどうか、他人を思いやり、協力し合う姿勢で、この危機を乗り切って欲しいと願っています。
 

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