今、生活に不安を感じていない人はいないのではないでしょうか。
毎日あてどなくネット空間をさまよい、TwitterやInstagramでインフルエンサーたちの「STAY HOME」を見て。飽きるとバナナケーキを焼き、YouTubeで筋トレもやりました。……しかし、そうして時間を埋めてみたところで、心の奥底にあるザワザワを抑え込むことはできず。一方、そんな親の不安を感知しない2歳男児は「イヤイヤ」ばかりを繰り返し、白目を剥いています。

そんな日々の中、すがるような思いで手にとったのが、佐藤愛子さんと小島慶子さんの書籍『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか:女二人の手紙のやりとり』です。
 

佐藤愛子さんと小島慶子さんは、本当に手紙のやり取りをしていた


本書は、『女性セブン』に掲載されていた往復書簡スタイルの連載をまとめたものですが、そもそもは、佐藤さんと小島さんがプライベートで手紙のやり取りをしていることを知った編集者が、「誌面で手紙を公開してもらえないか」と頼み込んだのがはじまりだそう。編集者さん、グッジョブすぎます……!

佐藤愛子さん(左)と、小島慶子さん(右)。このおふたりが私生活で実際に手紙のやり取りをされていたなんて…!

現在96歳の佐藤愛子さんは、『戦いすんで日が暮れて』で直木賞を受賞した作家であり、最近では、2016年に発表したエッセイ集『90歳。何がめでたい』が128万部を突破、大きな話題になりました。

【佐藤愛子さん インタビュー】94歳の作家〜激動の40代から得たもの〜>>


また、40代で夫が作った2億円の借金のうち3500万円を肩代わりし、借金がもとで偽装離婚するなど、波乱万丈の道のりを歩んできたことでも知られています。
そんな50歳上の「ソウルメイト」佐藤さんに対し、出稼ぎ母さんとして家族のいるオーストラリアと日本を往復する日々を送る小島さんが、深い悩みを手紙にしたためていました。

 

悩みのいくつかをとても雑にまとめると、こうです。

・夫の無頓着さに腹が立つ
・夫の過去の不貞が許せない(そして、彼を理解できない)
・言いたいことを言えない
・周りの人の気持ちを尊重しすぎてしまう

聡明かつ率直なイメージのある小島さんにもこんなお悩みが……という驚きと共に、自分自身の悩みとも重なることの多いこれらの人生相談に、96歳の佐藤さんはどう切り返すのか……。コーフンでページをめくる指が早くなるのを抑えられませんでした。

ここで、私が最も鼓舞された佐藤さんの一節を紹介させいただきます。

それは、「人との距離の取り方がわからない」と悩む小島さんが、「どうしたら、佐藤さんのように『言いたいことだけ言って生きている』と清々しく言えるようになるのでしょう?」と問いかけた手紙へのお返事の中にありました。

「今の時代は何かというと人の気持をわからなければいけないといい過ぎると私は思います。夫は妻の、妻は夫の、親は子供の、教師は生徒の……。エイいちいちうるせえ、と私はいいたくなる。」

この一節にかかわる佐藤さんと小島さんの問答は、タイトルの『あなたは酢ダコが好きか嫌いか』にもつながる、本書のクライマックスでしょう。

おふたりの手紙のやり取りを読んだ後、心のザワザワを取り出して観察してみました。でも結局、自分だけではどうなるものでもなさそうだったので、「エイうるせえ」と言ってぶん投げました。
加えて、イヤイヤ期の我が子に、「そうだったの、イヤだったのぉ」といちいち共感してなだめるのにも疲れたので、息子より大きな声で「やだやだやだやだやだ!」と言ってやりました。その日はとても寝付きが良かったです(もちろん私の、です)。

小島さんからは、「私だけじゃないんだ」という心強さを、佐藤さんからは、「自分に正直でいる」勇気をもらえた気がします。
おふたりの往復書簡を覗き見れば、先行きの見えない日々に、一筋の光が見えるかもしれませんよ!
 

 

『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか:女二人の手紙のやりとり』
著者:佐藤愛子、小島慶子 小学館 1000円(税別)


96歳のベストセラー作家、佐藤愛子氏と、悩み深い47歳のコラムニスト、小島慶子氏の往復書簡をまとめたエッセイ。「夫婦喧嘩はウップン晴しのため」「不自由な酢ダコ原理主義」など、才気溢れるおふたりの名言・金言が満載です。


構成/小泉なつみ