コロナ危機で、世界中がダメージを負っています。
誰も経験したことのない脅威にどう立ち向かえばいいのか。SNSやネットニュースを見ても、はっきりとした答えはありません。
日本より早く流行を迎え、3月上旬から厳しい都市封鎖に踏み切ったイタリアでは、1日の死者数が900人を超える日もあり、予断を許さない逼迫した状況が続いていました(5月19日現在、感染ペースは緩やかになってきており、飲食店の再開や外出制限の緩和がはじまっています)。
そんなイタリアでロックダウンが始まる直前、とある高校の校長先生が生徒に宛てた“手紙”が世界で話題になり、人々を勇気づけています。
ミラノにあるアレッサンドロ・ヴォルタ高校のドメニコ・スキラーチェ校長は2月25日、休校の決まった学校のホームページ上に、“生徒への手紙”を掲載しました。
先日発売された書籍『イタリア・ミラノの校長先生からのメッセージ 「これから」の時代を生きる君たちへ』では、このメッセージの全文と、日本の子どもたちへ向けたメッセージ、不安を抱えた親たちや教師に向けたコメントを紹介しています。
冷静さを保ち、群集心理に惑わされないでください。
必要な予防策をとって、いつも通りの生活を続けてください。
休校中の時間を生かして、散歩をしたり、良書を読んでください。
元気なら、ずっと家に閉じこもっている理由はありません。
スーパーや薬局に駆け込む理由もありません。
マスクは、体調が悪く、必要としている人たちに 残しておいてください。
こう呼びかけたスキラーチェ校長は、生徒たちに対し、かつてイタリアで蔓延した伝染病・ペストとの戦いを引き合いに出しながら、“目に見えない敵”への向き合い方を綴ります。
“見えない敵”がいたるところにいて、いつ襲われるかわからないという恐怖にとらわれたとき、私たちは本能的に、同じ人間をむやみに脅威に感じたり、攻撃の対象と感じるものです。
しかし、 14世紀や17世紀に伝染病が蔓延した時代よりも、現代医学はかなり進歩しています。
私たちの貴重な財産——社会組織や人間性を守るには、理性的な思考を持ってください。もしそれができなければ、本当に“ペスト”が勝利することになるでしょう。
「人間らしい思いやり」こそが、もっとも大切ーー。スキラーチェ校長は、なにかと惑わされがちな今、もっとも忘れてはならない根源的なメッセージを発信していました。
そして日本の子どもたちに向け、こんなアドバイスをしてくれました。
今回の非常事態は、21世紀に生きる私たちが抱いていた確信のいくつかを揺るがしました。
自分たちを“無敵の勝者”だと思っていたのに、実は脆いことに気づかせてくれました。
現代社会のすさまじいリズムに巻き込まれ、流されて生活していたのに、立ち止まらざるを得ない状況になりました。
この動けない状態は、私たちのライフスタイルを考え直すよい機会になるかもしれません。
命や愛、友情や自然など、本当に大切なものは何か、理解する機会になるかもしれません。
この未曾有の危機を乗り越えた後、私たちはどのように変化しているのでしょうか。
働き方のこと、政治のこと、住まいのこと、お金のこと。さまざまな物ごとの価値と向き合うことになった今の時間を、よりよい世界を築く“糧”にしよう……。
スキラーチェ校長先生の言葉に触れると、そんな前向きな気持ちが静かに湧き上がってきました。
読んだ後、互いに感想を言い合うだけでも新たな発見が得られそうな本書で、この時間の意味を改めて見つめ直してみてはいかがでしょうか。
『イタリア・ミラノの校長先生からのメッセージ 「これから」の時代を生きる君たちへ』
著者:ドメニコ・スキラーチェ(世界文化社/1000円+税)
メディアで大反響を巻き起こした“イタリアの校長先生からの手紙”の全文を掲載。休校が決まったミラノの高校で校長を務めるドメニコ・スキラーチェさんが、生徒向けにホームページ上で発信した「人間らしい思いやり」を大切にするメッセージが感動を呼びます。また、日本の読者に向けた言葉も新たに収録。
構成/小泉なつみ
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