ワクチンができるまでは治療薬に頼るほかありません。5月7日、国内初の新型コロナウイルス感染症治療薬としてレムデシビルが特例承認されました。ワクチンがなく、また効果的な治療法も見つかっていない中では希望的なニュースですが、峰先生は今回のような未曾有の事態では、薬の承認にはより慎重になるべきと警鐘をならしています。

日本では申請からわずか3日でスピード承認されたレムデシビル 。写真:代表撮影/ロイター/アフロ


効果についてはいまだ賛否両論


レムデシビル(販売名:ベクルリー)は他と比べても迅速に承認されました。これはアメリカでの治験で効果が認められたからというものです。使える薬が現れたことはよいニュースにも見えます。そして現在、レムデシビル以外にも様々な薬が研究されています(英語ですが、進展具合についてはこちらの記事が詳しいです)。

 

ただし、今回の薬の承認については注意したいことが多くあります。
そもそも薬というのはどのように承認されるかというと、まずは非常に厳密な治験(臨床試験)というもので安全性や効果が確認され、さらにどのような病気にどのように使うかという適応をしっかりと絞ったうえで承認申請がなされ、その上で審査されるわけです。

薬に効果があるかどうかについては、特に「RCT(randomized control trial:ランダム化比較試験)」と呼ばれる比較試験が重要になっています。効果をみたい薬と、比較するための治療法(しばしば偽薬=プラセボを使います)とに患者をランダムに割り付けて、集団での治療効果の差をみるという試験になります。このように集団に適応し比較をすることで、初めて効果があるかどうかがわかるのですね。

今回のレムデシビルについてもRCTが実施されています。中国でまずRCTが先行して行われましたが、この報告では患者数が十分に集まらず途中で中止されています。ただ、その内容は薬の効果はあまりなさそうというものでした。その後、アメリカでのRCTの状況についてコメントが出たわけですが、これについてはおもに病気の治療(持続)期間が短くなる、実際には回復までの期間の中央値というものが、偽薬(プラセボ)を投与された人たちは15日だったのが、レムデシビルを投与された方は11日だったという効果が確認されています。
ですがこれをもってこの薬に大きな治療効果があるといえるか、という点については議論が分かれており、実際に微妙なところです。確かに治療期間の短縮はあるので、効果はあるといっていいのでしょう。しかし、確実に重症化率や死亡率を下げるものとはいえないからです。 

そのような状況ですが、現状大きな副作用は限られており、治療効果といえるものもあること、さらに、現状、新型コロナウイルスに対して使える薬がないこともあり、緊急承認というかたちで承認がなされたわけですね。アメリカでは速やかに患者へ投与できるよう薬が確保され、投与法なども通達がなされている状況ですので、すでに必要な患者には使えることになっています。


緊急時でも慎重な治験と審査を


もともとは新型インフルエンザの治療薬であるアビガンも非常に話題になっています。現在はRCTが行われている段階で、その結果がしっかりと公表されるまでは、有益であるか、無益であるか、有害であるかはわかりません。そこがはっきりすることが何より大事ですね。
新型コロナウイルスは流行の勢いが激しく、多くの人が感染し、苦しんで亡くなっています。そういう状況において特効薬がほしいと考えるのは当然のことで、なんとか治したいと、効果が実証されていない薬も次々に試されているという現状もあります。

しかしながら、実際に薬というのは効かない場合があるだけでなく、有害なこともあり得ます。大切なことは、しっかりとコントロールされた、RCTを中心とする試験で効果が確認された確実なものを承認し、使っていくことであると思います。
パンデミックを背景に、とにかく急がなくてはならないなどという形で安全性や効果の確認が蔑ろにされそうな風潮もあります。あくまでもRCTで効果が確認されてこそ、初めて「効果がある」といえることを忘れてはいけません。こうした指摘は多くの科学者からもなされています

日本では、一部のテレビコメンテーターや、感染後に回復した芸能人などから「アビガンの効果で」などという発言がでてきたりしていますが、現在のところ薬が効いたのか自然に治ったのかはわかりません。これはRCTを行わない限り、医療従事者にも研究者にも分からないことなのです。
ですから薬はしっかりと治験の結果を待ち、そして国がしっかりとそれをもとに承認する。決して緊急時だからといってそのプロセスを蔑ろにしないことが大切ですね。これについては日本医師会有識者会議からも緊急提言がでています(「新型コロナウイルス感染パンデミック時における治療薬開発についての緊急提言」)。

前回記事「【病理医が検証】新型コロナの死亡者数、日米でなぜこれほど差ができたのか」はこちら>>

 
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