新型コロナウイルスによるパンデミックは、経済にも甚大な被害をもたらしました。日本は5月25日に全国で緊急事態宣言が解除されましたが、新規感染者数がゼロではないことから「まだ早すぎるのではないか」との声も上がっています。またアメリカも、最後まで残っていた首都ワシントンの外出制限を29日に解除。部分的ではあるものの、これで50すべての州と地域で経済活動を再開することとなりました。こうした状況はウイルスや免疫の専門家にはどう映っているのか、アメリカの国立研究機関博士研究員の峰宗太郎先生にうかがいました。
新しい生活様式とは「予防に注意する生活」のこと
外出制限を中心とする対策については、どの国にとっても、長期間行うことは経済的な問題を考えると困難であることは明白です。流行状況がひどい場合には外出制限や休業命令は仕方がありませんが、流行が収まれば経済活動を再開させることは非常に重要になります。日本では「自粛」を、国からの「要請」という形で対応していますが、多くの国では強権的に「命令」で対応しています。自発的にという意識は薄く、押しつけられている面もあるため、アメリカなどでは政府に対する不満も強くなる面はあるかもしれません。
外出制限は人間の生活にとって限界があるため、どこかで解除していかないと社会は持ちません。しかしながらその一方で、ウイルスは経済事情を全く考慮してくれません。ひどい流行状況がある程度抑えられた後であっても、流行が続く限りにおいては、常に対策をして流行をコントロールしていかなければ、再び流行拡大が始まり、容易に医療リソースが逼迫し、再び多くの死亡者を出すことにもなりかねません。
よって経済活動の再開を行うにあたっても、流行がコントロール可能なレベルになっていることや、予防策が一般国民にまで十分に周知徹底され、啓発がなされていることは必須であると言えますし、これはどこの国でも同様です。
現状のアメリカを見ていると、ニューヨーク市などでは新規感染者数も減少し始めており、明らかに流行は収まる方向へむかってきていますが、他の地域では依然として流行の拡大が続いています。そういう状況ですので、流行の状況をみながら各地で地域ごとに経済再開計画をしっかりとたてて進めていくことが重要であるように思われます。
一方で、全米で一気に経済活動を再開するにはまだ早すぎると考えられるところは多く、拙速に再開すると再び流行状況が悪化し、多くの犠牲者がでることにもなりかねないと考えます。アメリカの専門家も、流行状況をみると、本格的な経済活動再開は拙速であり、犠牲者が増えてしまう可能性もあると警告をしているような状況です。
現在日本では流行状況は落ち着きつつありますが、同様に状況をみながら慎重に再開することが重要でしょう。また再開した場合も、完全に、新型コロナウイルス流行前の元の生活に戻るということはありません。国の専門家会議も述べているように、「新しい生活様式」というものを実践していくことが重要になります。これは、予防に注意をする生活ということです。繰り返しになりますがウイルスは人間の都合を考えてはくれません。流行が続く限りは、それが拡大しないように各自が徹底した予防策をとり続けることが重要になります。
新しい生活様式はなぜ行わなければならないのか、どのような考え方で行うものなのかを、予防の原理原則から考えて各自が実践できるようにしていくことが重要であると思います。その準備がしっかりとでき、国民一人一人がその実践を覚悟しながら段階的に経済活動を再開していくことが、流行コントロールと経済活動をバランスよく回すために求められると考えます。
Comment