新型コロナウイルスの感染拡大によって経済は大きな打撃を受けています。2020年のGDP(国内総生産)は数%の下落が予想されていますから、5%と仮定しても単純計算で27兆5000億円の富が失われる計算です。テレワークへの移行や訪問営業の廃止、デリバリーの増加など、コロナ後の社会は、今とはまったく違ったものになると考えている人も多いと思います(いわゆる新しい生活様式)。
コロナによって経済が大打撃を受けたのは事実ですが、落ち着いて周囲を見回すと、実はコロナが世の中を変えたわけではないことが分かります。コロナ後を見据えた「新しい生活様式」と呼ばれるものは、以前からその必要性が叫ばれていたものばかりだからです。
代表的なのはやはりテレワークでしょう。テレワークは「働き方改革」の一環としてずっと前から推奨されていた形態であり、コロナは単にきっかけに過ぎません。毎日、すし詰めの満員電車でクタクタになって通勤するのは明らかに非合理的ですが、日本社会はなかなか変われませんでした。こうした頑固な習慣がコロナによって一掃されたというのが実状でしょう。
テレワークとセットになっているのが無駄な会議の廃止です。「会議のための会議」という言葉からも分かるように、日本の企業社会には不必要な会議がたくさんありました。これは国際的に見てもかなり特殊であり、諸外国ではアジェンダ(議題)がはっきりしない会議は蛇蝎のごとく嫌われるのが普通です。
ムダな会議が日本企業の生産性を引き下げているというのは、何年も前から指摘されてきたことであり、一部の先進的な企業では会議の削減を進めていたところでした。
やたらと相手の企業に訪問する営業スタイルについても同じことが言えるでしょう。一方的な訪問は相手の時間を奪う行為であり、これも諸外国では非常に嫌われる行為ですが、日本では「営業は足で稼ぐもの」という認識が強く、顧客の迷惑を考えずに訪問を繰り返すという商習慣がなくなりませんでした。
これについても、ここ数年、AI(人工知能)を活用した営業支援システムが発達したことで、一部の優良企業はITを使った合理的な営業に舵を切っています。
こうしたところにコロナが発生したのであって、コロナによってこれらの新しいスタイルが生み出されたわけではありません。つまりコロナによって物事が変わったのでなく、これまで変化が求められていたにもかかわらず、それが出来ていなかった分野に変化を促しているのです。この話は個人の生活についてもほぼ同じことが言えます。
在宅が増えたことでデリバリーの利用が急拡大していますが、この動きも今に始まったことではありません。ここ数年、ウーバーイーツなどITサービスの普及によって、外食のデリバリー・シフトが進みつつありました。感度の高い外食関係者の間では、従来型飲食店の数が今後、激減するというのは半ば常識だったといってよいでしょう。
実際、日本よりもITサービスが発達している米国では、デリバリーの影響で多くのレストランが廃業に追い込まれており、市場の変化を知る人にとっては、デリバリーの急増は驚くような話ではありません。
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