ストーリーこそ、人の心を開くカギ


たしかにいま例に挙げたクオモ知事のスピーチは素晴らしいかもしれませんが、はたして日本で応用できるのだろうか、という疑問もあるかもしれません。

日本のビジネスシーンや政治家のブリーフィングでは、私的なことを入れるのはむしろよくないと捉えているところがあります。そのために小池都知事のケースのように、ロゴス一辺倒になりがち。

話している個人の顔が見えない、企業や団体の代弁をして話しているようなケースが多く見受けられます。しかしそれでは感情を揺さぶられず、事例報告や数字を聞いただけで終わってしまうことになりかねません。

だからこそパトスという情熱の部分を強化させたいのですが、それがすぐできるのがスピーチにストーリーを取りいれることなのです。

ストーリーテリングとは、あなた自身の経験や、それを通して得た気づきを、聞き手にわかちあうことです。

ストーリーは相手の心を開くカギです。
実はあなたしか持っていない、あなたのストーリーが他人を動かすのです。

それは決して自慢話や、成功談だけをちりばめた話のことではありません。
むしろ失敗から気づいたことや、苦労をしてつかみとった学びのほうが、聞く人にとってパトスを揺さぶられるものです。

たとえば世界で1000万部を売りあげたミシェル・オバマ元大統領夫人の自伝「マイ・ストーリー」(原題:Becoming)。大学進学をムリだといわれた過去、子育てと仕事を両立できずに悩んだこと、家庭内ワンオペ問題など、誰もが経験するような悩みが語られ、さらに夫を助けてキャンペーンに出ても政敵にバッシングされたり、ブラックであることでレッテルを貼られたりと、たいへんな苦労があったことが語られています。

これだけの苦労や悩みを経て、かの「ミシェル・オバマ」になったのだ、という内容だからこそ熱狂的な支持を得たのです。

それをわかっている女性リーダーこそ、人々の心ががっちり掴めるリーダーになり得るといえるでしょう。


・次回はリップシャッツ信元夏代さんの人の心を動かす「ストーリーテリング」のスピーチ例についてご紹介いただきます。

『世界のエリートは『自分のことば』で人を動かす』
著者:リップシャッツ信元夏代 1500円(税別) フォレスト出版

「なぜできるリーダーは心を揺さぶるストーリーを語るのか」「あなたのことばが伝わらない、決定的な違いはなにか」…その鍵は、あなたの語るスピーチが「ストーリー」に落とし込めているかどうか。世界のリーダーたちがビジネス戦略に取り入れている「ストーリーテリング」のメソッドを公開。プレゼンだけでなく、対人関係においても、”自信”と”存在感”が高まる世界基準のブレイクスルーメソッドが満載です。

リップシャッツ信元夏代

事業戦略コンサルタント、プロフェッショナルスピーカー。
ニューヨーク在住。1995年早稲田大学商学部卒業。ニューヨーク大学スターン・スクールオブビジネスにて経営学修士(MBA)取得。早稲田大学卒業後すぐに渡米し、伊藤忠インターナショナル・インク(NY)に勤務。その後マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京)のサマーインターンを経て、2004年に事業戦略コンサルティング会社のアスパイア・インテリジェンスを設立。同社を通して、調査分析、戦略設計、及びグローバルリーダー育成のための各種企業研修を提供。2014年には、ブレイクスルー・スピーキング™ を立ち上げ、グローバルに活躍する日本人、そしてグローバル日系企業向けに、「文化の壁を越えて伝わり、相手を動かす」プレゼン・スピーチを指導。トーストマスターズインターナショナルの国際スピーチコンテストでは、日本人初の地区大会5連覇、世界トップ100入りを果たす。著書に「20字に削ぎ落とせ ワンビッグメッセージで相手を動かす」、ブライアン・トレーシー氏との共著『The Success Blueprint』がある。一児の母、競技ラテンダンスのプロアマ選手として世界大会にも出場。乳がんサバイバーでもある。

 
インタビュー・文/黒部エリ
構成/朏亜希子(編集部)

第2回:「ストーリー」のあるスピーチが持つチカラとは?(6月18日公開)