共感を呼ぶのは成功ではなく失敗した経験

 

新著『世界のエリートは自分の言葉で人を動かす』のなかでも紹介しましたが、私がある日本企業で、次世代のリーダーシップを担う女性たちにセミナーを行ったときのことです。

 

ワークショップの後で、参加してくれたなかのひとりの女性が、「実はいままで誰にも話したことがなかったのですが」と自分の仕事における経験を涙を流しながら話してくれました。

彼女にとっては誰にも話さなかったこと。特に話す価値があるとは思っていなかった、ある仕事での経験でした。

それは彼女のチームで働いていた、顧客アドバイザーの女性Bさんのケースでした。Bさんはスキルも高く知識も豊富であるのに、なかなか営業売上に結びつかない。それがある時、顧客の一社から地域社会のために講習をしてくれる人を探しているといわれ、アドバイザーのBさんを推薦したのです。本人は自信がなく、最初は不安がっていたといいます。それが実際に講習をしてみれば、Bさんの技術も知識もすばらしいものであって、クライアントからも絶賛されたのでした。

その時にその女性が感じたのは、
「自分はつなぐことにもっとも喜びを覚えるリーダーなのだ」という発見だったといいます。

彼女はそのストーリーを、翌日のプレゼンで見事に語りました。彼女は改めて自分の経験を掘り起こし、どう感じて、どんな気づきがあったか内省したのです。また自分の体験を物語ることで、初めて自分のリーダーシップはどうありたいか、ということに気づけたのです。

「でも私のしてきたことなんて、たいしたことじゃないし」と自分を過小評価しないでください。自分が経験したことを、自分だけの学びや気づきとしてストーリーにしていけばいいのです。
 
成功話でなくてもいいし、ましてや自慢話ではありません。

最初からうまくいってなんら苦労がない人よりも、苦労のあった人がなんらかの努力やアイデアで、成功するほうが、ずっと興味をもたれるのです。

最初からスタイルいい人が「やだー、また太っちゃう」とかいいながらケーキを食べていたら、イヤミに聞こえてしまいますよね(笑)。

でもその人がかつては肥満で悩んでいて、「ある方法」でダイエットして痩せたと聞いたら、その方法を聞きたくなりませんか?「また太っちゃう」の受け取り方、その言葉への興味も変わってくると思いませんか?

なぜなら、それは自慢話ではなくて、「自分もマネしたらできるかもしれない」という方法が示されているからです。

ストーリーは自分の内面を掘りさげていく、内省という作業です。前述の女性のケースのように、毎日の仕事で起こることは学びや気づきがあっても、つい日々の出来事として流してしまいがちです。

けれども、そこを流さずに、自分を見つめてみて下さい。
たとえば自分の失敗、初めての経験でのこと、欠点、そして不満といったこと。一見、ネガティブなことにこそ、ストーリーのタネは埋まっています。

たとえば初めての営業での失敗、女性社員としてパンプスを強いられることへの不満、自分がプロとして仕事をしていることを人にタダで頼まれて断る時のむずかしさ、など、ごくふつうに起こることでよいのです。
そこから何を感じたか、どういうきっかけで気づきを得たか、どう変わったか。内省することによって、自分をよく知り、さらに成長することができます。

ふだんからノートにネタ帳を書きためてもいいし、ブログを書くのでもよいでしょう。