自分にとって本当に大切なものは何か?

コロナ時代に変わる幸福観「成功を諦めれば幸せに」【『嫌われる勇気』岸見一郎さん】_img0
 

――今、私たちは何とか元通りになることを願っていますが、そうではなく、もう考え方を変えていかなければならないんですね。

 

岸見:おそらくコロナウイルスは当分終息しないと思いますが、万が一終息したとしても元の生活に戻ってはいけないのです。

――元に戻ってしまうとどうなるのですか?

岸見:また以前のように、生産性に価値を置く世の中になってしまいます。「何ができるか?」ということに価値を見出す世の中に……。
でもそういう価値観は、間違っているとまでは言いませんが、我々に大変な生き方を強いるものだということに気づかなければいけません。
これまで皆、一生懸命競争をして生きてきたわけですよね?ですがお金がどれほどあったところで、感染するときはします。有名な芸能人であっても、例外ではありませんでした。

お金も地位も名誉も関係なく、死に直面することが現実にあると分かった以上、成功を目指す生き方はやめるべきです。
先ほどお話した70代の男性のように、「本当は仕事なんかどうでもよかったんだ」と言えるよう、日々のささやかな喜びを大事にして生きていくことを考えていくしかないのです。

――今私たちは、本当の幸福というものに気づく機会を得ているとも言えるのですね。

岸見:だからこそ本当にしたいと思っている仕事なのかを考え、大切な友達とだけ付き合う。そういったことをしていってもいいと思います。

話は逸れるのですが、私は少し前に引越しをしました。孫がいる家から車で5分ぐらいのところに。毎日孫に会えるのであれば、以前より仕事上不便な場所になってもここに住もう、と思いまして。
今も変わらず仕事は続けていますが、違うのは孫が毎日遊びに来るようになったこと。それが私にとっての幸せなのです。そういったささやかなことを、「これが幸せだ」ともっと言える世の中にしないといけないと思います。

――孫がどんなに賢いかとか成功しているか、とかそういうことでなく、会えることが嬉しいというのは根本的なことですね。そういえば東日本大震災の直後は、「本当に大事なことは何か」と皆が考えました。でもすぐに忘れてしまって……。

岸見:家族の顔を見られるだけで嬉しい……。
これまでは、そういうことを知らない人たちが多くいたわけです。仕事人間だと、知る機会がなかった。たとえば会社から単身赴任を命じられても、そういうものだと思って素直に受け入れていましたが、そんなのは決して当たり前のことではないですから。
家族がいながら離れて生きていくのは、決して当たり前ではない。そのことに我々は今、気づくべきだと思うのです。

となると我々は、大きな決断を必要としますよね。幸福をとるか、成功をとるか。
でも成功をとったところで、もはやあまり意味がないのです。なぜならどれだけ生きられるかも分からない時代ですから。
だからもう成功はきっぱり諦めて、今日という日を今日のためだけに生きていく。自分次第でそう生きていくこともできるのです。そうすると本当にささやかなことが喜びに感じられる、私はそのことを強く言いたいと思っています。


次回は「コロナ時代に考える家族関係」についてお届けいたします。
 

撮影/目黒智子
取材・文/山本奈緒子
構成/片岡千晶

 

第1回「コロナ禍でも変わらない人・職場との付き合い方」>>

第3回「ストレスを感じる家族関係の見直し「いつも一緒、でなくていい」」7月28日公開予定

第4回「コロナを経た新しい時代で生きていくために大切なたった一つのこととは?」7月31日公開予定

 
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