7月5日。
投票率55%で、つまり有権者のうち約500万人が棄権した東京都知事選の翌日、話題のドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を観てきました。
大島新監督が、香川県出身の衆議院議員・小川淳也さんの政治家活動17年を追い続けたこの作品の評判をSNSで目にしたとき、恥ずかしながら政治に疎い私も「この作品は今観なければいけないヤツだ」と感じたのです。
結論から言うと、都知事選の前に絶対観ておくべきだった。
香川の名門校から東大法学部に進学し総務省に入省、絵に描いたようなエリートだった小川議員は、無意味な慣習や年功序列が横行する官僚組織に限界を感じ、国民のため、日本の政治を変えたいという熱意のもと、32歳で民主党から初出馬します。
私欲を捨て、家賃4万2千円(うろ覚え)の部屋に一家4人で住み、東京の議員宿舎と香川の家を行き来しながら政治活動を続けてきた彼の姿は、私が今まで政治家に抱いていたイメージ(どんなイメージかはあえてここでは触れませんが)とは程遠いものでした。あまりにストイックな愚直なまでの理想主義。熱い。熱すぎる……。こんなに純粋な人物が、海千山千の人たちばかりな政治の世界でやっていけるのか。こんな人が政治のトップになって欲しいと思う反面、「この人、政治家に向いてないんじゃ」と心配になってくるのですが、それは作品を撮った大島監督も、小川議員の家族も、そしてなんと、小川議員本人も感じていたことのよう。理念を掲げ、正々堂々真っ向勝負する様は、暴露本を出されたどこかの政治家の生き方とは対極にある感じ。
「こんな政治家がいたんだ……」と感動したのですが、実は私が知らなかっただけで、2017年の国会で統計不正を追及し、そのときすでに SNSでは「会計王子」として注目され、「こんな政治家がいたんだ!」と話題になっていたのでした。
彼が映像の中で発した、「国民は政治家を馬鹿にするけど、その政治家は自分たちが選んだ政治家だという自覚がない限り、日本の政治は変わらない」という内容のセリフに、私はハッとしました。彼のこのセリフは、日本人の政治に対するスタンスの本質を突いていると思ったから。
SNSやネットの掲示板では散々政治家批判・政策批判がされていながら、いざ開票してみると投票率55%というのがすでに、政治に自分たちが積極的に関わるという姿勢や関心の低さを物語っているし、「自分の一票が世の中を変える」という自覚がない人が多いんじゃないか。
それは、報道系バラエティ番組の司会を務めるお笑いタレントの松本人志さんでさえもが、今回の都知事選で投票しなかった、なぜなら「消去法的な選挙に意味があるのかと思ったから」などと発言したことからも伺えます。影響力あるいい大人が、こんな無責任な発言を臆面もなくできてしまうことに、私はショックを受けました。
「そういうことじゃ、ないんだよなあ」。
コロナ禍にあり、自分たちの命を左右する政策を決める政治家を選ぶことの大切さを国民全員が思い知った今なのに。今投票しない人には、政治を批判する資格はないと、私は思う。政治に参加する権利を、自ら放棄してしまったんだもの。
小川議員は「持続可能な未来」をキャッチフレーズにしているのですが、今まさに私たちは、「持続可能な社会」を手に入れるために何をすべきか、どんな政治家を選ぶかが問われているのではないか。この映画の前に、横浜でバンクシー展を観たので、余計に考えさせられてしまいました。
政治的な社会風刺のメッセージを込めたストリートアーティストのバンクシーの作品には、資本主義のために思考停止した人々に向ける、強烈な批判を感じるものが多いのです。環境だけではなく、サステナブルな社会を残すために自分ができることは何なのか。自分は何をしているのだろうか。バンクシーの「世界最大の犯罪は、規則を破る者によってではなく、規則に従うものによって犯される。命令に従って爆弾を投下し、村で虐殺を行うのは人間なのである」という言葉は、まさに民主主義の中での思考停止を的確に表現していると思います。
奇しくも、都知事選と同じ日(現地時間では7月4日のアメリカ独立記念日)に、アメリカ大統領選出馬を、ラッパーのカニエ・ウエストがTwitterで表明。
躁うつ病の過去を持ち、問題行動も多いカニエが大統領に相応しい器の持ち主かどうかは置いておいて、アメリカのセレブたちの政治に対する関心の高さは、見ていてうらやましく感じます。ひとりひとりが、自分の一票が社会を変えるという意識をきちんと持って選挙に参加している。そんな当たり前のことが、機能しているように見えるから。実際はアメリカの投票率も約50%と低いのですが、だからこそテイラー・スウィフトやクロエ・モレッツなどのセレブたちが、若者に「有権者登録をしよう」「選挙に行こう」と訴えているのですね。
もうひとつ、映画の中で印象に残ったセリフがあります。
「選挙の勝負はいつも51:49。勝った51が49を背負わなければならないのに、実際は51のためだけの政治をやる」。
政治に興味のない人も、充分楽しめるドキュメンタリー。今、2020年のこの時期だからこそ、多くの人に観て欲しいなと思う作品でした。
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