九州を中心に全国各地で水害が相次いでいますが、被災地域の撤去作業を軽装の子どもが行っていたことが問題視されています。批判の一部は、どういうわけか、その事実を報道した新聞社に向けられていますが、一体、何が起こっているのでしょうか。
熊本県南部の人吉市では、多くの家屋が浸水被害を受けました。水が引いた後には大量の泥が残されており、地域住民は撤去作業に追われています。こうした中、被災地の商店を助けようと、地元のサッカークラブに所属する中学生が撤去作業を手伝っている姿が報じられました。
ところが、その中学生が半袖半ズボンという軽装だったことから、一部の医療関係者から疑問視する声が上がりました。洪水後の泥の中には、大量の細菌、ウイルス、化学物質が含まれており、擦り傷などを通じて体内にウイルスや化学物質が侵入することも十分に考えられます。子どもの場合、ウイルスや化学物質に対する感受性が高く、細心の注意が必要とされていますから、医療関係者の指摘は適切なものと考えてよいでしょう。
この報道に対してネット上では「こうした話を美談にするのはおかしい」との声が上がり、批判の矛先が、中学生を軽装で作業させたサッカークラブではなく、写真を配信した新聞社に向けられました。しかしながら、写真を配信した朝日新聞映像報道部や毎日新聞写真部のツイッターを見ると、「地元の中学生が片付けを手伝っている」という内容の文章が付記されているだけで、この行為を賛美した文章は見当たりません。
一連の批判に対して毎日新聞は謝罪せず、「被災地のありのままの姿を取材し報道することも私たちの重要な使命であると考えております」とコメント。一方、朝日新聞は「配慮を欠いて不適切だった」と謝罪しましたが、一連のやり取りに違和感を感じた人も多かったと思います。
このケースについて新聞社を批判している人の多くは、地元の中学生の行為について「危険である」と報道しなかったことを問題視しているようです。しかし現実問題として、災害現場で起こった出来事について、十分な検証もせず、いきなり危険であると断定して批判記事を掲載することの方がはるかに問題が大きいと筆者は考えます。
中学生の行為について指導者や地域社会を批判する場合には、科学的な知見を持つ専門家にヒアリングしたり、チームの指導者や保護者あるいは中学生本人に対して、どのような趣旨だったのか十分な取材を重ねる必要があります。個人的には、こうした作業を子どもはできるだけ行うべきではないと思いますが、今回のケースにおいても少数とはいえ、災害現場ではやむを得ないとの意見も出ていましたから、危険であると指摘することが絶対的に正しいとは限りません。
いずれにせよ、多くの被災者が苦しんでいる災害現場において、現地への負荷が大きい取材は行うべきではなく、まずは事実を簡潔に伝え、あとは読者(視聴者)に委ねることが重要です。その意味では、朝日新聞と毎日新聞はメディアとして、当然の仕事をしたに過ぎません。
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