「コロナうがい薬会見」が医療の現場に与えた影響

「コロナうがい薬問題」から医師が考える「情報の感染力」#コロナとどう暮らす_img0
 

ポビドンヨードのうがい薬に関する、大阪府吉村知事の会見からすぐのこと。医師である私は、事の大きさを思い知らされることになりました。翌日、病院で何度も「イソジンは処方してもらえますか?」「あれって本当なのですか?」と質問を受けることになったからです。

 

吉村知事の発言は瞬く間にSNS上に広がり、あっという間に多くの人の購買行動につながり、その後賛否両論が広がりました。この一件は、“不確かな情報が急激に拡散された”「インフォデミック」だったといえるかもしれません。

このような、メディアやSNSを通したメッセージの「感染力」は、もはやどの病原体をも超えています。新型コロナウイルスは、人を介してしか広がりません。しかし、情報は世界の裏側までも、瞬く間に飛んでいくことができるのです。

パンデミック、そしてインフォデミックの今、情報に溢れた世界でどのように生き抜いていけば良いのか。本稿では、うがい薬の一件を振り返りながら、考えていきたいと思います。
 

うがい薬は新型コロナに効くのか?のシンプルな真相


ポビドンヨードを用いたうがいは、昔から「かぜの予防」として好まれてきました。確かに、ポビドンヨードには、口の中に住む細菌やウイルスを除去する効果があります。

しかし、残念ながら一般にウイルスというのは体の一つの場所、一臓器には止まっていてはくれません。例えば新型コロナウイルスなら、喉の粘膜だけでなく、鼻にも感染します。実際、PCR検査は鼻の奥の粘膜からとっていますよね。また、どこより最もウイルスが好む臓器は肺であることもわかっています。

当然ですが、うがいをして効果のある場所は喉に限定されます。仮にうがいで喉に感染しているウイルスが除去できたとしても、残念ながら肺までは届きません。しかし、肺に感染したウイルスは、咳や大声を出した時に飛沫として体の外へ出ていき、感染を広げてしまいます。この肺にいるウイルスにはうがい薬は無効です。

このようなことから、ウイルスのことを少し理解していれば、詳細な論文や研究内容を見るまでもなく、うがい薬によって新型コロナウイルスに「打ち勝てるんじゃないか」とは考えにくい、ということになります。

むしろ、うがいを過信した感染者がウイルスはいないはずだとしてマスクをしなくなり、外で咳をしたらどうでしょうか。逆効果かもしれません。

また、そもそもうがいの有効性は、ポビドンヨードが鍵なのか、うがいをすることが鍵なのかも微妙なところです。過去の風邪に対する研究では、ポビドンヨードよりも水うがいでこそ風邪のリスクが低減されたことが示されたこともありました(参考1)。
 

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