陶作家と予約の取れない人気茶寮による芸術的なコラボレーション


陶作家で「ギャルリ百草」(岐阜・多治見)の廊主でもある安藤雅信さんと、予約が取れないほど人気の茶寮「菓子屋ここのつ」(東京・浅草)の溝口実穂さんが、四季折々に開催してきた茶会の記録『茶と糧菓−喫茶の時間芸術』が刊行され話題に。8月25日〜30日には、出版記念展を開催。森岡書店にて、書籍と本に登場する器の特別販売が予定されているそう。

「糧菓(りょうか)」とは耳慣れない言葉ですが、それもそのはず、これは、溝口さんの独創的な菓子に対して、安藤さんが名づけた新しい言葉で「和菓子とも洋菓子ともいえない、菓子とも料理ともつかない味や食感をたたえ、一定量の大きさの入れ物を糧とし、その範囲内で展開され続ける菓子」を意味します。空気感のある写真とともに本に収められた文章には、私たちの想像を越えた糧菓の世界が、安藤雅信の器の中でとめどなく展開し、芸術的な喫茶の時間を生み出す様子が綴られています。

今回は、茶会のたびに新作の器をお披露目するという安藤さんご自身に、糧菓のための器について語っていただきながら、本の中身をのぞき見していきます。

青刷毛目足付板皿×桃のクレープ

 

「夏らしい青。目を凝らすとチェック柄のように見えるのは、化粧土という白い土を刷毛で縦方向に塗ったあと、横方向に青色の絵の具を重ねているから。絵を描くように自由な気持ちで作った板皿です。薄く板状にした粘土をフリーハンドで長方形に切り出していますが、左上が四角く欠けているのは『おや?』と思って欲しいから。器が会話のきっかけになるって、いいでしょ」(安藤さん)

 

六弁反平碗×メロンのスープ

 

「中国から伝わった青磁の透明感のあるブルーグリーンを、一般的な青磁釉とは異なる配合の釉薬で表現しています。外側は銀彩。六つの花弁を持つ繊細な形は宋時代の白磁から影響を受けました。美大で彫刻を専攻し、美術的な観点から焼物をスタートした僕は、この器のように中国陶磁の伝統的な意匠を取り入れる時でも、少しズラした表現をしたくなる。それが現代に僕が作る意味だと思っています」(安藤さん)

薄桜釉の茶器と白い茶道具×台湾紅茶

 

「茶席を作る時は、テーマに即して自作の器と骨董や古道具を織り交ぜます。色味、デザイン、素材を足し引きしながら構成する作業はとても楽しいものです。秋の茶会では、白、茶、黒と、茶の種類ごとにガラリと雰囲気を変えた茶席を作りました。この茶席は、薄ピンク色の茶器を引き立たせるために、その他はマットな白に統一。北京で手に入れたヨーグルトの瓶を茶入れに、アフリカの部族のタパ(前掛け)を敷布に見立てています」(安藤さん)

 
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