『ナギサさん』と『逃げ恥』を混同していた人は多い

大森南朋の『ナギサさん』が第5話から視聴率急上昇した理由【祝!再放送】_img0
撮影/岩田えり

しかしここで、私を含め周囲の『ナギサさん』ファンたちにある戸惑いが生まれ始めます。それは、「あれ、このドラマって『逃げ恥』を継承したものではないの……?」というもの。なぜなら多くの人たちは、『ナギサさん』は『逃げ恥』と同じ“新しい家族のカタチ”、あるいは“結婚のカタチ”に切り込んだ社会派エンタメドラマである、と思い込んで見続けていた節があると思うのです。

 

ところが、「おじさんがお母さんの役割を担ったっていいじゃない」というテーマかと思いきや、とくにそこが深堀りされていくわけではない。そこで次は「子に完璧を強いる毒母がテーマだったのね!」と軌道修正しかけたら、母親はあっさり自分の非を認めナギサさんを受け入れる。毒母問題も第3話にして早々と解決してしまいます。そして第4話になると、メイと田所が近所の公園で「キャハハ」と戯れるシーンが最大の見どころに。この時点で私は、「ああ、このドラマは『逃げ恥』を継いだものではなく、普通に胸キュンする恋愛ドラマだったのね、勘違いしていたわ……」とまで思ったものです。

このように『逃げ恥』のイメージを重ねすぎるあまり、このドラマが描こうとしているものをイマイチつかみきれず戸惑っていた人は、私を含め少なくなかったようです。それも致し方ないことで、『ナギサさん』は『逃げ恥』と同じ家政婦ものであったこと、また放送開始直前に『逃げ恥』が再放送され、引き継ぎ時には多部さんが『逃げ恥』の代名詞でもある恋ダンスを踊ってみせるなど、『逃げ恥』感を演出していた部分はたしかにあったからです。それゆえ私たちは『ナギサさん』の真のテーマに気づくのがすっかり遅れてしまったよう。でも第5話にしてようやく分かったのです。そう、このドラマは全ての頑張り過ぎてしまう人たちに向けたとにかく優しい寄り添い系ドラマなのだ、と。

実はこの“寄り添い”は、第1話からブレることなく貫かれていたことでした。というのもこのドラマには、嫌な人が一人も登場しません。メイとその家族をひたすら温かく見守り続けるナギサさんを筆頭に、一瞬毒母のように見えたものの、ちゃんと娘を愛していて、実は家事ができないコンプレックスを抱えているところがかわいい母親。ジェンダーにおける偏見が一切ない優しい父親。普通なら若くして出世したメイを快く思わなそうなのに、それどころかとても協力的で性格のいい職場の仲間たち。そしてライバルなのに、「患者さんのため」を考え新しいMR同士の関係性を築こうとする田所etc……。

そこには、現実社会に渦巻く攻撃性も、自分さえ良ければいいという自己中さもありません。それゆえ、皆がこんなふうに生き合えたらきっと毎日がすごくラクだろうなあ……、そんなひと時の夢と癒しを与えてもらい、また明日から頑張ろうと思える。『ナギサさん』は最初からずっとそういうドラマだったのです。「逃げ恥だ」「毒母だ」とこねくりまわして考える必要などなく、ただただ安心して見ていればいいドラマだったのです。

その『ナギサさん』はいよいよ終盤に入り、これからメイとナギサさんの恋模様がメインとなってくる気配です。そこには、距離が近くなったからこそ生まれる衝突や葛藤も出てくることでしょう。それをどのような寄り添い視点で、二人は素敵に乗り越えていってくれるのか? 心の底から安心して、温かい飲み物でも片手に、ほっこりと見させていただきたいと思います。

【再放送スケジュール】
■TBS『私の家政夫ナギサさん』ディレクターズカット版全話一挙放送SP
12月28日(月)
あさ 6時~7時50分
あさ 8時~11時50分
ひる 12時~18時30分
文/山本奈緒子 構成/藤本容子


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著者一覧
 
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映画ライター 細谷 美香
1972年生まれ。情報誌の編集者を経て、フリーライターに。『Marisol』(集英社)『大人のおしゃれ手帖』(宝島社)をはじめとする女性誌や毎日新聞などを中心に、映画紹介やインタビューを担当しています。

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文筆家 長谷川 町蔵
1968年生まれ。東京都町田市出身。アメリカの映画や音楽の紹介、小説執筆まで色々やっているライター。著書に『サ・ン・ト・ランド サウンドトラックで観る映画』(洋泉社)、『聴くシネマ×観るロック』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、共著に『ヤング・アダルトU.S.A.』(DU BOOKS)、『文化系のためのヒップホップ入門12』(アルテスパブリッシング)など。

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ライター 横川 良明
1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。twitter:@fudge_2002

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メディアジャーナリスト 長谷川 朋子
1975年生まれ。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情を解説する記事多数執筆。カンヌのテレビ見本市に年2回10年ほど足しげく通いつつ、ふだんは猫と娘とひっそり暮らしてます。

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ライター 須永 貴子
2019年の年女。群馬で生まれ育ち、大学進学を機に上京。いくつかの職を転々とした後にライターとなり、俳優、アイドル、芸人、スタッフなどへのインタビューや作品レビューなどを執筆して早20年。近年はホラーやミステリー、サスペンスを偏愛する傾向にあり。

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ライター 西澤 千央
1976年生まれ。文春オンライン、Quick Japan、日刊サイゾーなどで執筆。ベイスターズとビールとねこがすき。

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ライター・編集者 小泉なつみ
1983年生まれ、東京都出身。TV番組制作会社、映画系出版社を経てフリーランス。好きな言葉は「タイムセール」「生(ビール)」。18年に大腸がん発見&共存中。

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ライター 木俣 冬
テレビドラマ、映画、演劇などエンタメを中心に取材、執筆。著書に、講談社現代新書『みんなの朝ドラ』をはじめ、『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』ほか。企画、構成した本に、蜷川幸雄『身体的物語論』など。『隣の家族は青く見える』『コンフィデンスマンJP』『連続テレビ小説 なつぞら上』などドラマや映画のノベライズも多数手がける。エキレビ!で毎日朝ドラレビューを休まず連載中。

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ライター 渥美 志保
TVドラマ脚本家を経てライターへ。女性誌、男性誌、週刊誌、カルチャー誌など一般誌、企業広報誌などで、映画を中心にカルチャー全般のインタビュー、ライティングを手がける。yahoo! オーサー、コスモポリタン日本版、withオンラインなど、ネット媒体の連載多数。食べること読むこと観ること、歴史と社会学、いろんなところで頑張る女性たちとイケメンの筋肉が好き。寄稿中の連載は、
「yahoo!ニュース」『アツミシホのイケメンシネマ』
「COSMOPOLITAN」日本版『女子の悶々』
「COSMOPOLITAN」日本版『悪姫が世界を手に入れる』
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ライター 山本奈緒子
1972年生まれ。6年間の会社員生活を経て、フリーライターに。『FRaU』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。

 
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