2020年は「ムーミン75周年」。
日本でもおなじみの「ムーミン」シリーズは、フィンランドの国民的作家トーベ・ヤンソン(1914-2001年)が生み出した作品です。この記事では、最初の小説
『小さなトロールと大きな洪水』(1945年)が発表されてから75年を経た今も愛される、名作の魅力をご紹介します。

 


ムーミントロール、スナフキン、ちびのミイ……キャラたちが多彩すぎる!


誰もが知っている「ムーミン」シリーズは、ムーミントロールという名前の男の子が主人公ですが、一体、どんな生き物かご存知でしょうか?
トロールといえば北欧の伝承ではおなじみの妖精の一種ですが、ムーミントロールは、トーベ・ヤンソンが生み出した「オリジナルの生き物」なのです。

好奇心旺盛でやさしいムーミントロール
黒いシルクハットをかぶり、冒険好きなムーミンパパ
いつもハンドバッグを持っている、陽気なムーミンママ
このムーミン一家を中心に、さまざまな登場人物がゆかいで不思議なできごとを引き起こします。
自由を愛する旅人のスナフキンや、体は小さいけれど勇敢で独立心旺盛なちびのミイ、夏至の夜にたねから生まれるミステリアスな生き物ニョロニョロなど、ひとくせあるキャラクターがたくさん登場するのもみどころのひとつで、それぞれに熱心なファンがいますよね。

彼らが暮らすムーミン谷には、陽気で楽しいキャラクターだけでなく、孤独を愛するものや神経質なもの、悩みを抱えたもの、辛辣なもの、実に様々な個性を持った人物たちがいます。そこでは、誰もが他者をありのまま受け入れ、自分自身もありのままで自由に生きているーー。
「ムーミン」シリーズが75年を経てもなお多くの読者を惹きつけるのは、今こそ大切にしなければならない、多様性と包括性にあふれる物語だから、なのかもしれません。

 

大戦中 平和を望んだトーベが生み出した「ムーミン」


父は彫刻家、母はグラフィックアーティストという芸術一家に生まれたトーベ・ヤンソンは、15歳からプロのイラストレーターとして活動し、ストックホルムやヘルシンキで美術を学びました。この頃トーベは「ムーミン」の原型と言われている、鼻の長い生き物「スノーク」を、毎年夏に訪れていた家のトイレの壁に落書きしています。

その後、留学を経て帰国したトーベは画家としての地位を確立しましたが、フィンランドはその地政学的な要因もあり、長い間断続的に戦争が続いていました。
トーベは、政治風刺雑誌「ガルム」で独裁者を批判する痛烈な風刺画を発表するようになり、その署名の横には、あの「鼻の長い生き物」が描かれていたのです。

トーベが文章と絵を手掛けた最初のムーミン作品『小さなトロールと大きな洪水』が発表されたのは、第二次世界大戦ががようやく終わりをつげた1945年です。
ニョロニョロにだまされて行方不明となったパパをさがしに、ムーミンママとおさないムーミントロールが旅にでるというストーリーは、戦争のさなかに執筆された影響が色濃くあると言われています。
しかし、おそろしい森や沼をぬけ、さまざまな生き物との出会いを重ねて、お日さまの光あふれるあたたかい場所をめざすムーミン親子の旅は、きちんとハッピーエンドを迎えます。それは、戦争によってもたらされた暗く恐ろしい現実とはちがう、幸せな世界を望んでいたトーベの想いが込められているからでしょう。

残念なことに、この第一作目は商業的にはうまくゆきませんでした(1991年の再版まで長らく絶版)が、トーベ自身は画家の仕事をつづけるかたわら、ムーミンシリーズの執筆もつづけます。
そしてとうとう、1948年に発表された三作目『たのしいムーミン一家』が英訳され、イギリスでも評価されるようになったのです。

 1954年には、ロンドンの夕刊紙「イブニングニュース」で漫画の連載も始まります。これをきっかけに「ムーミン」の存在は世界中で知られることとなり、ムーミンの物語も多くの国で翻訳出版されました。
トーベは作家として国際アンデルセン賞を受賞するなど、世界的に高く評価されるようになったのです。
 

漫画の原画280枚超を公開 コミックス展で知る奥深い世界


「ムーミン」シリーズヒットの大きなきっかけとなった漫画版ですが、トーベ・ヤンソンと弟のラルス・ヤンソンによる連載漫画の原画など280余点を公開する「ムーミン コミックス展」が開催されます。(松屋銀座 9月24日(木)~10月12日(月))
※2年間で全国11会場を巡回予定。(開催会場は順次発表予定)

トーベ・ヤンソンとラルス・ヤンソン

トーベ・ヤンソン 「『まいごの火星人』スケッチ」

ラルス・ヤンソン 「『Moomin and the Ten Piggy Banks』原画」


展覧会では「ムーミン75周年」を記念し、「ムーミンコミックス」にスポットを当て、未邦訳となっているストーリーや漫画だけに登場する個性的なキャラクターなどを紹介。
キャラクター設定やスケッチ、原画など280余点を通じて、楽しくも奥深いムーミンたちの豊かな世界を楽しめます。

【開催概要】
■展覧会名:ムーミン75周年記念「ムーミン コミックス展」

■会期:2020年9月24日(木)~10月12日(月)
(最終日は17:00閉場、入場は閉場の30分前まで。営業日及び開場時間は変更になる場合がございます。詳細は展覧会公式サイトをご確認ください。)

■会場:松屋銀座8階イベントスクエア(中央区銀座3-6-1)

■入場料:一般1200円(900円) 高校生700円(500円) 中学生500円(400円) 小学生300円(300円) ( )内は前売料金

<入場は全て「日時指定制」になります。詳細は展覧会公式サイトをご覧ください。>


ムーミン全集【新版】


ムーミンの物語は全部で9冊出版されています。一作目は31歳、最後の『ムーミン谷の十一月』は56歳での出版でした。
25年間という長い年月をかけて執筆された物語からは、こどものためだけでなく、現代の大人にも響くような、豊かな感性と深いメッセージが込められているのを読み取ることができます。

お話も、単純な冒険にとどまりません。
彗星が衝突して地球がこなごなになってしまうかもしれない恐怖を抱えて旅をする『ムーミン谷の彗星』
洪水で家を流されて一家が離れ離れになってしまう『ムーミン谷の夏まつり』
自信を喪失したムーミンパパがある日突然、孤島に移住を決めてしまう『ムーミンパパ海へ行く』など……。
決して、ほんわかしたおとぎ話ではないのです。

あまり外出できない昨今ですが、奥深く、大人に響く魅力をもったムーミン全集を読めば、きっと心の元気がわいてくるはず。
ぜひ手に取ってみてください。
 


試し読みをぜひチェック!
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50年以上続いていた日本語訳の改訂版がついに出版、とても読みやすくなりました。2020年10月にはシリーズ全9巻が揃います。 

『ムーミン全集[新版]1 ムーミン谷の彗星』
あと4日で、地球滅亡……!? 衝突の危機がせまった彗星を調べるため、ムーミントロールはスニフと共に、天文台へ大冒険。スナフキン、スノークのおじょうさんとの出会いも!

 

『ムーミン全集[新版]2 たのしいムーミン一家』
ムーミントロールたちは、ある春の日、魔物の黒いぼうしをひろいました。ぼうしによって、雲に乗ったり、家がジャングルになったり、ムーミントロールがおかしな姿になったりします。ニョロニョロたちも、大活躍します。

 

『ムーミン全集[新版]3 ムーミンパパの思い出』
ムーミンパパの記した自叙伝。厳しく育てられたみなし子ホームの暗い時代を抜け出し、個性的な仲間たちとともに、船で大冒険に出ます。自由と冒険を求める、人生の賛歌。あのキャラクターたちのパパやママが登場します。

 

『ムーミン全集[新版]4 ムーミン谷の夏まつり』
ムーミン谷が洪水に見舞われ、流れてきた家に移り住んだムーミン一家。あやしい家は、どうやら劇場というもので、ドタバタと芝居をすることになりますが……!? 一家離散の大騒動や、スナフキンとちびのミイのたのしい一幕も必見です。

 

『ムーミン全集[新版]5 ムーミン谷の冬』
見えるものだけが、すべてじゃない。ムーミントロールは、冬眠中に、たった一人で起きてしまいました。まったく知らない世界が広がっていて、しかもだれひとり心を開いてくれないことに落ち込みますが……?

 

『ムーミン全集[新版]6 ムーミン谷の仲間たち』
心にしみる、九つの物語。スナフキンによって名前をもらった、一匹のはい虫や、冷たい言葉を言われすぎて姿が見えなくなってしまったニンニの物語など、珠玉のショートストーリー集。

 

『ムーミン全集[新版]7 ムーミンパパ海へいく』
ムーミンパパは、灯台守になると言い出し、一家は小さな島へと移り住みます。ですが、島は生きているし、灯台はつかないし、なにひとつ、パパの思い通りにはいかなくて……。

2020年10月1日 発売予定

 

『ムーミン全集[新版]8 ムーミン谷の十一月』

2020年10月14日 発売予定

 

『ムーミン全集[新版]9 小さなトロールと大きな洪水』

 

『ムーミン谷の名言シリーズ1 スナフキンのことば』

©Moomin Characters™
構成/北澤智子