産後トラブルとして起こる尿漏れは、「腹圧性尿失禁」と呼ばれるタイプ。ちょっとしたことでも漏れてしまうので、子育てしながら困っているママも多いのではないでしょうか。二人のお子さんがいる自由が丘ウロケアクリニック・佐藤亜耶先生も、実は出産後に尿漏れを経験したそうです。
「どうやったら尿漏れは治るの?」みんなが知りたい疑問にお答えいただきました。
【全四回】尿漏れ・頻尿についての特集ページはこちら
第一回「女性に多い「尿漏れ」の原因とは。実はみんな悩んでる!」
第三回「さっきもトイレ行ったのに!頻尿、尿漏れを引きおこす「過活動膀胱」とは」
第四回「朝起きて愕然…。最近、大人の「おねしょ」が増えているワケ」
1.腹圧性尿失禁は、なぜ起こる?
腹圧性尿失禁は、骨盤の一番下にある「骨盤底筋」が緩んでしまうために起こります。骨盤底筋が緩むと、尿道の入口をキュッと締めている「括約筋」も一緒に緩んでしまうので、おしっこを抑えきれなくなるのです。
小さい時から縄跳びをしたり大笑いすると漏れる、という人は、もともと骨盤底筋が弱いケースでしょう。多いのは出産後ですね。「よいしょ」と力を入れたら漏らしちゃった、というのはよく聞きますが、圧がかかった時に漏らすならまだいいほう。例えば、湯船から上がる時に膣からお湯が出てしまうとか、それくらい緩くなる人もいます。私も産後、寝ている間にジャーって漏らしちゃったことがありますよ(笑)。
30歳で出産した人が、50歳くらいになって急にトラブルで悩まされる、なんてこともあります。出産した時はまだ若いので一時的に持ち直せるのですが、身体自体はすごくダメージを受けているので、身体が衰え、体力が落ちた頃に一気に出てきてしまうんです。
普段の動作が尿漏れを強めている?!
お腹に力が入る動作は、骨盤底筋に負荷をかけてしまいます。たとえば便秘。排便するためにグッと力みますよね。それから産後の体重増加。短期間で急に体重が増えることは、内臓を支える骨盤底筋へのダメージにつながります。
また、ママになると重い荷物を持ったり、赤ちゃんを抱っこしたりと、おなかに力を入れることがたくさんありますよね。なので赤ちゃんはベビーカーに座らせたり、おんぶにして、おなかが圧迫される場面をなるべく少なくしましょう。
ただ、出産にトラブルはつきものだから仕方ないとあきらめることはありません。もともと漏れやすい人も、産後に緩んでしまった人も、「骨盤底筋体操」という運動をしてもらうことで良くなっていきますよ。
2.一番簡単な骨盤底筋体操のやり方は?
私はいつも「出そうなオナラを我慢する感じで、肛門を締めてください」と説明しています。肛門を意識するのが一番やりやすいんですよ。その時に肛門の少し前、膣のあたりも意識しながら、巾着袋を締めるイメージで「キュッ」と力を入れます。
具体的なやり方は、3秒締めて、3秒緩める。「3秒、3秒」を繰り返します。
インターネットやテレビでは「5秒、2秒」や、「10秒締める」、「仰向けで膝を立てる」など、いろいろな方法が紹介されていますが、自分でやってみたら複雑さに息が苦しくなってしまったので(笑)、私のクリニックでは簡潔に「3秒、3秒」でお伝えしています。3秒でもしっかり効果はありますよ。
気づいた時に10回ずつでOK!
この「3秒、3秒」を1日50~100回やってください。まとめてやろうとすると大変ですから、10回1セットで、気づいた時にやれば大丈夫です。しばらく続けると、尿漏れの症状も少しずつよくなってくるはずですよ。座っている時、立っている時、電車やお風呂の中、テレビを見ながらなど、いつでも構いません。
でも、よくなってくると、皆さんサボり始めちゃう(笑)。クリニックでも「体操やってますか~」「ごめんなさい、忘れてました」というやりとりをよくしています。やらないとまた元に戻ってしまいますから、日々の習慣にしましょう。
骨盤底筋は肛門と膣と尿道が通っている筋肉なので、この筋肉が緩むと尿だけでなく、便も漏れやすくなってしまいます。老後のためにも普段から骨盤底筋を鍛えておくことは、すごく大事ですね。
3.腹圧性尿失禁の治療期間は?
骨盤底筋体操を続けることで一ヶ月ほどで治る人もいますし、なかなか改善されない場合は薬を使うこともあります。ひどい方ではごくまれに、括約筋を引っ張り上げて尿道を締める手術を行うこともあります。
尿漏れは、恥ずかしさから誰にも相談できず、そこから「自分だけなのでは?」と思ってしまう人が多いみたいで、うちにも泣いて来られる方がいます。そういう方に「大丈夫ですよ。私もなりましたし、そういう患者さんは多いですよ」と言うと、「そうなんですか?」と驚かれたり、「先生も⁈ 良かったー!」とホッとされたりします。自分だけじゃないと分かるだけで、気持ちにも変化が生まれますよね。そういったことも、早く治ることにつながっていきますよ。
取材・文/梅田千恵(スタジオ・コル)
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵
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佐藤亜耶 Aya Sato
自由が丘ウロケアクリニック院長。女性泌尿器科、小児医療センター等の病院に勤務後、女性と子どものための泌尿器クリニックを開院。医学博士、日本泌尿器科学会認定専門医。二児の母でもある。