「お金のプロの方は、お金についてどんなふうに考えているの?どうつきあっているの?」という疑問から生まれたインタビュー企画。マネー業界のトップの方々に「お金の価値観」について伺っていきます。
今回ご登場いただくのは、金融業界では珍しい女性社長、野村アセットマネジメントの中川順子さん。一度退職し、専業主婦だった経験もある中川さんのお金の付き合い方とは?

<今回お話を伺ったのは……> 

 

中川順子さん
1988年に大学卒業後、野村證券(現・野村ホールディングス)奈良支店に一般職として入社。ファイナンシャルアドバイザーとして窓口業務に携わったのち、総合職に職種転換し、人事、投資銀行、財務などを経て、2004年3月に38歳で退社。夫の海外勤務に伴い、香港に移住し専業主婦に。42歳で帰国後、2008年野村ヘルスケア・サポート&アドバイザリーに入社。シニアアドバイザーを経て、社長就任、2010年野村ホールディングスCo-Deputy CFO等を経て、2019年4月に野村アセットマネジメントCEO兼代表取締役社長。

 


―― 中川さんは、証券会社の一般職、そして専業主婦、さらに野村アセットマネジメント初の女性社長と、さまざまなご経験をされていらっしゃいます。「お金」については、どのように感じていますか?

中川順子さん(以下、中川):お金は、ある程度あった方が“自由度”が高くなると感じますね。何かしようと思ったときに、選択肢が広がりますから。お金をうまく使うことで人生経験も増えていくと思います。

とはいえ、お金はあればあるほどいい、わけではないですね。たくさんあることで心配の種になることもあります。「いくらあればいいのか」は人によって異なり、少ないお金で十分という方もいれば、豪勢に遊びたいからたくさん欲しい方もいるでしょう。40~50代の女性でしたら、自分がどれくらいあればちょうどよいのか、実感されている方も多いかもしれません。

――最近は、将来の「老後資金」など、お金について考えるニュースも増えてきました。

中川:日本は高齢化社会が進むというと、ネガティブな声も聞かれますが、お年を召した方が、長生きができる幸せな国、ととらえることもできます。自分自身がイメージしているよりも、私たちは長く生きる可能性が高いので、長生きに対して不安にならないように、ある程度の準備が必要な時代ではありますね。

40~50代くらいの方は、自分のためだけでなく、家族を守るためのお金も準備したい時期かもしれません。また、もし何かでキャリアを中断することがあったとしても、ある程度お金があれば、思いきれるかなと思うんです。

――中川さんは38歳のときに、ご主人の海外転勤に伴って退職され、香港に移住して4年間専業主婦をされていたと伺いました。

中川:はい、それまでずっと働いてきて、どんなに景気が悪くてもお給料は出ていたので、仕事を辞めて、収入がなくなることに不安はありました。

でも、新入社員時代から、少しずつ積み立てていた投資信託があったので、支えになりましたね。「これくらいあれば、収入がなくてもしばらくやっていけるかな」と思って、踏み出すことができたんです。

必要なお金をすぐに準備することはできないので、長期で積み立てるという時間も味方につけることが大切だと実感しました。小さいお金でも積み立てていくことで大きなお金になっていくと思います。

 

――お若い頃から、しっかり資産形成をされていたのですね。

中川:いえいえ、文学部出身ということもあって、入社した時は、お恥ずかしながらお金について何も知らなかったのです(笑)。でも、証券会社でしたので、すぐ身近に投資信託がありました。仕事場に行けば、投資信託の積み立てを始められる環境にあったことは幸運でした。

ただ、当時は女性はキャリアの選択肢が限定的でした。一般職で入り、結婚退職が一般的。仕事を続けていくなら、お金のことをしっかり考えて、自分にも投資をしていかないといけない。仕事を辞めざるをえなくなる可能性も考えて、少しずつ資産をつくっていかなくてはと思っていましたね。

お給料は、新入社員のときはいろいろ引かれてあまり残らないですけど(笑)、それでも手取りの1割くらい、ちょっと無理するかなという金額で、なるべく使わないようにと預貯金や投資信託の積み立てをしていきました。
もちろん、投資はうまくいったときと、そうでないときがあって……うまくいかないものは解約して違うものを買ったりと、試行錯誤でしたけれど。

――中川さんも試行錯誤の時代があったとは、親近感がわきます……。

中川:はい、誰でも、最初はわからないですよね。

もちろん、仕事としては勉強を重ねて、お客様にご提案できる知識は身につけていきましたが、個人的にどこにどれくらい投資したいかというのは、性格や個人の想いなどにもよって異なります。「このテーマに投資してみたい」と共感できるポイントは人それぞれですから、私も様々なものにトライして、見つけていきました。

20代のころは、関西から東京に出てきて何かと出費があり、友達の結婚式が重なったりして、「生活がきついなあ……」というときに、積み立てていた投資信託の一部を解約したこともありました。
基本的には積み立てを続けていましたが、そのようなライフイベントがあったときに、まとまったお金が助けになってくれますね。お守りのようなイメージです。

 
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