オリンピックイヤーとして盛り上がるはずだった2020年。コロナという未曾有の危機によって、予定の変更やキャンセルのみならず、目標や人生設計を見直さざるを得なかった、という方も多いはずです。たくさんの試練に見舞われることで、一人では対処しきれない心の息苦しさを感じてしまうことも。そうした辛さを誰かに打ち明けることは、想像以上に難しいことだったりもします。『苦しい時は電話して』の著者である坂口恭平さんは、「死にたい」という人の話を、電話で10年以上も聞き続けています。坂口さんはなぜ、SOSの着信を受け続けるのか、そして、生きることが苦しくなってしまった時のヒントとはーー。今回は特別に本書から一部抜粋して、坂口さんの言葉をお届けします。

 

09081064666

これは僕の携帯電話の番号です。
僕は「いのっちの電話」という、死にたい人であれば誰でもかけることができる電話サービスをやっています。もちろん無償です。本家本元の「いのちの電話」がほとんどつながらないという現状を知り、2012年に一人で勝手にはじめました。1日に7人ほどかけてきますので、1年だと2000人を超えます。もう10年近くやっています。

なんでこんなことをはじめたのか。
なぜなら、自殺者をゼロにしたいと思っているからです。

僕は、医師からは躁鬱病(現在では双極性障害Ⅱ型と呼ばれている)という診断を受けています。躁鬱病は周期的に気分が良くなりすぎたり、悪くなりすぎたりを繰り返します。躁状態の時は、とにかく何もかもが爽快で、可能性に満ち溢れているように感じます。しかし、その周期はそれほど長くは続かず、しかもその後は穏やかな精神状態に戻るわけではなく、一気に下降していきます。そのまままっすぐどん底に向かっていきます。そして鬱状態がはじまります。
つまり、僕自身、周期的に死にたくなってしまいます。

死にたいと思うことが、あなただけに起きている特別なことではなく、人間にはよくある症状だと気づくことが重要なのですが、一人でそれに気づくことはとても難しいということを頭に入れておいてください。

 

それでは死にたくなっている時、どうしたらいいのか。他人を活用するのです。
自分で自分を客観的に観察できなくなっている状態なので、他人に観察を任せる。
自分で考えることをできるだけせず、自分から離れて他人の声に耳を傾ける。

人は他人に自分が死にたいと思っていることをなかなか話せません。恥ずかしいし、人に重荷を与えているような気持ちになるし、話せば惨めになるかもしれないとも思います(これらも死にたいと思っている時の症状だと思います)。

・他人と比べることが止められず、他人が素晴らしく見え、自分がみずぼらしく見える。
・恥の感覚が強くなり、ありとあらゆることが恥ずかしくなってしまう。
・人とうまく話せなくなっている。特に世間話ができなくなっている。

こういったことも、自分だけの問題だと思っているかもしれませんが、「いのっちの電話」をはじめて、1万人ほどの死にたい人の声を聞いた結果、僕が感じたことは、ほぼ全員がこうなっているということでした。

あなただけではないんです!

僕の夢は、自殺者をゼロにすることです。
それはまた、僕自身が自殺をせずに、寿命を全うしたいということでもあります。

荒唐無稽なことを言っているように聞こえるかもしれません。でも僕には確信があります。
死にたいと思っていることを口に出すことができて、他人にそれを聞いてもらえたら、誰も自殺することはないはずだ、と。

ここまで読んできて、「もうダメかも……」と思う人はぜひ、09081064666に電話をかけてみてください。