「HPV」は子宮頸がんの原因としてよく知られているウイルスです。女性であれば、健康診断の婦人科検診で定期検査を行っている方も多いかもしれませんね。あらためてこのHPV、一体どのようなウイルスで、いつ感染してしまうのかご存知でしょうか?

女性の子宮頸がんだけでなく、実は男性の中咽頭がんにも関与しているのではないかと考えられているHPVについて、Twitterでも積極的に医療関連の情報を発信する医師の前田陽平先生に、耳鼻咽喉科専門医の視点で詳しく教えていただきます。

 

1.「HPV」ってそもそもどんなウイルスなの?


HPVとはヒトパピローマウイルス(human papillomavirus)の略で、ヒト乳頭腫ウイルスとも言われます。皆さんはあまりご存知ないかもしれませんが、HPVはなんと100以上の種類があるんです。

HPVにはそれぞれ数字の型番がついていて、がんなどの悪性腫瘍の発生に関与するHPVは「ハイリスクHPV」と言われています。その代表が16型や18型などですね。

感染したとしても自然排除されることが多いんですが、排除できなかった場合には“持続感染”となって悪性腫瘍、つまりはがんを発生させたりすることになります。

女性の場合、8割以上の人が生涯に一度は何らかのHPVに感染するとされていますから、HPVに感染することは決して珍しくないということは覚えておいていただきたいですね。


2.いつ、どこで、どうやって感染するの?


圧倒的に接触感染、つまり性行為によって感染します。なお、コンドームをしていても感染することがあります。生涯のセックスパートナーが多い方がHPVの感染率は高いと言われていますが、先ほどもお伝えしたように決して特別な人だけが感染するものではありません。

国内の男性を対象にしたHPV感染率の報告は見当たりませんが、国内の女性の感染率は4割という報告があります。これは一時的な調査なので常に4割とは限りませんが、10人中4人程度がHPV陽性だったと考えると、それくらいありふれたものである、ということがわかるかと思います。

性行為以外では“垂直感染”と言って、母体がHPVを原因とする性感染症のひとつ「尖圭(せんけい)コンジローマ」を持っていて、生まれた赤ちゃんに感染するというケースもあります。

とはいえ、HPVの感染は性行為によるものがほとんど。予防策としてコンドームの使用はもちろんある程度有効ですが、完全には防ぐことはできません。子どもにきちんと性教育をしても防ぎきれないとしたら、一体どうしたらいいの? という話ですが、ここで重要になってくるのがHPVワクチンなんです。

 

日本小児科学会・日本産科婦人科学会では、女の子を対象に11~14歳での接種を推奨していて、小学校6年生〜高校1年生相当の女の子は公費によって無料で3回接種することが可能です。子宮頸がんのリスクを減らすだけでなく、お母さんから赤ちゃんへの垂直感染を起こさせないためにも、性交渉前の年齢にHPVワクチンを接種することが大事だとされています。

3.HPVが引き起こす病気ってどんなもの?


子宮頸がん、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がん、尖圭(せんけい)コンジローマ、喉頭乳頭腫などです。

私は耳鼻咽喉科医なので、中咽頭がん、喉頭乳頭腫について少し補足すると、中咽頭がんは主に扁桃腺や舌の付け根である“舌根”に発症するがんであり、喉頭乳頭腫は喉頭や気管などにイボのようなものをどんどん作ってしまう病気です。

母体から赤ちゃんにHPVが感染することを垂直感染と言いましたが、赤ちゃんがHPVに感染してのどに喉頭乳頭腫ができてしまうと、最悪の場合は気道を塞いでしまうことがあります。そうならないように何度も手術をしたり、再発を繰り返したり、最悪の場合はがん化することもあって、かかると大変な病気なんです。

HPVが原因とされるこうした病気は、HPVワクチンを接種することによって防ぐことができると考えられています。

前田陽平 Yohei Maeda

大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科。耳鼻咽喉科専門医・指導医・医学博士。アレルギー学会認定専門医・指導医。Twitterでも耳鼻科や医療関連の情報を発信している。
【Twitter】ひまみみ 耳鼻科 前田陽平(@ent_univ_)


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全4回】
第二回「HPVワクチンは男性も打つべき!中咽頭がんとの関係を医師が解説」
第三回「中咽頭がんは「口中やけど」状態も…医師が目指す治療とQOLの両立とは」
第四回「HPVワクチンは副作用が…という人に伝えたい、安全と断言できる科学的根拠」