HPVの感染が引き起こす病気は、女性の子宮頸がんがもっともよく知られていますが、男性の中咽頭がんにもHPVが関与していることがわかってきました。中咽頭がんとはどのようながんなのでしょうか。HPVとの知られざる関係性とその症状について、耳鼻咽喉科専門医の前田陽平先生に解説していただきます。

 

1.HPVが男性の中咽頭がんにも関係あるって本当?


HPVが子宮頸がんを起こすメカニズムは、がんになる前の病変“前がん病変”がはっきりしていることもあり、かなりの部分で解明されていますが、一方で、HPVが中咽頭がんを起こすメカニズムは実は現状でははっきりわかっていないんです。

 

中咽頭がんについては、扁桃腺や舌根の陰窩(いんか)と呼ばれるくぼみの部分にHPVが感染して、その部分からがん関連遺伝子などに影響を与えてがんになると考えられています。ただ、中咽頭がんは前がん病変がいまのところ発見されていません。HPVの感染があることは明らかでも、すでにがん化した状態でしか発見されないので、がん化に至るまでの詳しいメカニズムが解明できていないんです。

なぜ「がん」ができるのか、という話はとても複雑ですが、一つの要素についてお話ししてみます。人間の体は常に細胞を作り替え続けていますが、たまに間違った細胞を作ってしまうことがあります。そこで “がん抑制遺伝子”と呼ばれるものが、ダメな細胞が出てこないよう品質チェックの役割を担っているんです。そのがん抑制遺伝子に異常が起きると、がんになりやすくなるんですね。HPVは一部のがん抑制遺伝子を不活性化させてしまうことがわかっています。こういったメカニズムもHPVが中咽頭がんを起こす原因の一つかもしれませんね。


2.中咽頭がんの初期症状って?


食べ物や唾液を飲み込む時の違和感、のどの痛み、口の開けにくさ、舌の動かしにくさ、耳の痛み、首のしこり、声の変化、唾に血が混じる、などがありますね。

口が開けにくい、舌が動かしにくい、首のしこりなどは、自分でも「なんだかおかしいな」と異常に気づきやすい症状ですよね。でも、飲み込む時の違和感や、のどの痛みならどうでしょうか? きっと、風邪かなと思って様子を見られる方も多いですよね。

中咽頭がんは、進行するまで割と症状が軽いことが多いのも問題のひとつなんです。

中咽頭がんは扁桃腺や舌根の陰窩(いんか)というくぼみの穴の中にできるので、表面からは見えません。放っておくとリンパ節などに転移して首にしこりができたり、首が腫れることで発見されることもあります。実際、8割以上の患者さんがリンパ節に転移した状態で発見されます。

日本では比較的簡単に耳鼻咽喉科を受診することができますから、のどの違和感を覚えたらまずはお近くの耳鼻咽喉科に受診して相談していただけたらと思います。

3.中咽頭がんは男性に多いって本当?


圧倒的に男性の方が多いというのはありますが、はっきりとした原因はわかっていません。のどのがんは飲酒や喫煙が関与しているものがほとんどなので、そうしたリスクを持っている方には男性が多い、というのはあるかもしれません。

ただ、“HPVが原因の中咽頭がん”に限定すれば、飲酒や喫煙はあまり関係ないとされていて、「どちらもやらないのに……」という方もなってしまうのが特徴です。これまでお伝えしてきたように、HPVは性行為による感染がほとんど。これはひとつの仮説ですが、女性の陰部は男性の陰部よりもHPVが持続的に感染しやすいため、オーラルセックス(口腔性交)による口腔感染が、HPVが原因の男性の中咽頭がんを引き起こしやすくしているのではないか、ということもあるのかもしれません。

 

アメリカではすでに、HPVが関与するがんでは、女性の子宮頸がんよりも男性の中咽頭がんの方が多いという状況です。そうした背景もあり、世界的には「HPVワクチンは男性も接種するべき」という流れになりつつありますね。女性の接種を優先する国はいまだに多いですが、それは男女共に接種するとワクチンが不足してしまうから、という側面が大きいようです。

前田陽平 Yohei Maeda

大阪大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科。耳鼻咽喉科専門医・指導医・医学博士。アレルギー学会認定専門医・指導医。Twitterでも耳鼻科や医療関連の情報を発信している。
【Twitter】ひまみみ 耳鼻科 前田陽平(@ent_univ_)


取材・文/金澤英恵
イラスト/徳丸ゆう
構成/山崎恵

 

【全4回】
第一回「HPVを正しく恐れるための基礎知識。なんと100以上のタイプが存在!」>>
第三回「中咽頭がんは「口中やけど」状態も…医師が目指す治療とQOLの両立とは」>>
第四回「HPVワクチンは副作用が…という人に伝えたい、安全と断言できる科学的根拠」>>