一番辛かったのは心理療法
高次機能障害の私にとっては、辛い脳トレ三昧の「作業療法」と、体を動かせばOKの楽しい「理学療法」でしたが、リハビリ史上最大にきつかったのは「心理療法」でした。
私の脳のやられ具合を、心の問題のプロである臨床心理士が専門的に評価して、これからどうしていくのかをカウンセリングしてくれます。けれど目には見えない知的機能や認知機能、さらに無自覚なメンタルダメージまで細かく調べるため、毎回テスト。つまり、試され続ける訳です。
これはほんと苦痛でしたが、自分をさまざまな角度から見直し、性格や能力などの長所や短所と向き合い、今後の生き方について的確なアドバイスをもらううちに、感銘を受けるようになりました。精神状態もしっかり見極めてサポートしてくれたのです。
他にも、リハビリ病院では、退院後の生活について幅広い支援体制が整っていました。
復職に際して、障害の程度を企業側に専門家として説明し、休業補償が出るのかを確認。
入院中に無収入になった場合の救済制度から、障害が残っても生活できる自宅のリフォーム、訪問介護といったサービスの紹介まで、あらゆることを相談できる窓口がありました。加えて、退院前には管理栄養士による栄養指導、理学療法士からはリハビリメニューの手作りマニュアルのプレゼントも。
社会復帰するには、万全の環境を整えることが必要なのです。
ついに退院!社会に復帰して思ったこと
日々のリハビリで心身共に回復していった私は、ついに「退院して、この後は外来で経過を診ていきましょう」と主治医からの言葉が。
至れり尽くせりの30日間にわたる入院生活でしたが、猫と一緒にいられない影響は深刻で「退院決定」を聞いたときに「ヨッシャー!!」と思わずガッツポーズ。
退院に向けて作業療法では、お世話になった院内のスタッフのみなさんに向けて、医療ライターとして得意としている「男性更年期」をテーマに10分程のプレゼンが最終課題に。
これも患者に合わせ個別の卒業訓練でした。
理学療法では、いつも食堂の窓から眺めていた東京スカイツリーへGO!電車やバスにのれるか、人混みでもパニックになることなく、普通に出歩けるかを確認。心理療法士には「実際、仕事復帰して困ったとこがあったらいつでも相談にくるように」と心強い言葉をいただきました。
他にも、バリアフリーや手すりをつけるなど自宅にリフォームが必要な方の場合には、退院前に作業療法士や理学療法士が自宅に訪問して、必要な工事について専門的に準備をヘルプしてくれます。
退院後のかかりつけ医、介護施設、デイサービスなども希望に合わせ紹介してくれる相談窓口もあります。さらには、管理栄養士による個別の食事指導もあり、「くれぐれもお酒はたしなむ程度に」と厳重注意を受けました。
退院当日は、看護師さんたちに「毎日ちゃんと薬を飲んで、血圧を測って体調管理。二度と戻ってこないでくださいね」と見送られて、私の30日間の入院生活は幕を閉じました。
何も変わっていないようですが、明らかな変化はこの写真を見ると一目瞭然。ウイズ植込み型除細動器(前回記事参照)で不整脈に気をつけながら、人生を過ごしていく覚悟を決めたわけです。
なのに、これまでの生活に慣れるのはあっちゅーま。スグに薬を飲み忘れがち。
「脳梗塞も心筋梗塞も再発する人は、やはり薬をちゃんと飲んでいない人」という看護師さんの言葉がよぎります。自分はちゃんとできると思っていましたが慢心でした。服薬管理するお助けアイテムを購入して気をつけています。
退院後、酔っぱらってドアに指を挟んで整形外科に慌てて駆け込んだ時がありました。問診票を前にして、記入事項がいっぱいあるとビックリ!これまで大きな病気をしたことがあるか、飲んでいる薬があるか。
「心室細動」「薬は飲んでいるが、今はわからない」など適当に書いて提出したら、「こんな恐ろしいこと書いてるのに、酔っぱらってドアに指を挟んだ? お薬手帳を持ってない? 信じられない。ほんとに、よく蘇りましたね」と説教を受けました……。
「あなたが、今度また倒れても、誰もあなたのことを知らないんですよ。お薬手帳がなければ薬も出せません。自分を守れるのは自分だけ」と。確かにそうですと猛反省。
最近、飛行機に乗った時のことです。セキュリティゲートで何度もピーピー、ピーピー。そこで「あっ、私、植込み型除細動器入ってるんです」と思い出しました。人間なんてそんなものです。
けれど、心臓が痛む時のためにニトログリセリンの舌下錠は手ばなせません。これは爆弾にも使われる薬剤。一発ドカンと血管を広げてくれるので苦しさは消えるのです。
みなさんも、過信、妄信、油断を捨てて、ご自愛ください。
<心肺停止経験後に実践しているコト>
・生活習慣病の予防
検診を受けて安心せず、血圧・コレステロール・血糖値などを意識して管理。
・服薬を管理
心疾患・脳卒中を再発する方は薬の飲み忘れが多い。服薬カレンダー、アプリ、ピルケースなどで管理。
※脳卒中発症後2年の時点で退院時に処方された薬剤を継続内服している患者の割合は、 降圧薬74%、抗血小板薬(抗血栓薬)64%、スタチン(脂質異常症治療薬)56%、ワルファリン(抗血栓薬)45%と、 かなり低いことが分かっています*。
* Glader, E. L. et al.: Stroke 41:397-401, 2010
・何か異変を感じたら、迷わず医療機関へ
かかりつけ医に定期的に診てもらい、必要に応じて専門医を紹介してもらう。
・もしものためのセフティーネット確保
自宅からの距離が近い信頼できる友人を優先して緊急情報に登録。鍵、医療情報、スマホやPCなどのIDを託しておくこと。マンションの隣人、管理組合にも情報共有。
・スマホの緊急時情報の設定
・保険証、お薬手帳、緊急連絡先をひとまとめセットした病院セットを常に携帯
『山手線で心肺停止! アラフィフ医療ライターが伝える予兆から社会復帰までのすべて』
熊本美加・著 上野りゅうじん・漫画 鈴木健之・監修 1320円 講談社
毎年の健康診断では「問題なし」だったアラフィフの医療ライターが、ある朝、山手線で心肺停止に。予兆はなかったのか? その時、生死を分けたものとは? その後、高次脳機能障害となるもリハビリを経て仕事復帰するまでをまとめた「蘇りルポ」をコミック化。主治医の監修付きで実用書籍にしました。自分と大切な人のために、読んでおきたい一冊です。
文/熊本美加
構成/片岡千晶(編集部)
この記事は2020年11月29日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。
・第1回「山手線内で心肺停止!即死を免れた医療ライターが2週間前から感じた予兆とは?」>>
・第2回「電車内で心肺停止…脳の機能障害になった女性医療ライターの入院&治療ルポ」>>
・第3回「心肺停止、脳障害から蘇った医療ライター「倒れた後の入院&治療のリアル」」>>
・第4回「山手線内で心肺停止から蘇った医療ライター「留守番の猫は?退院後にした3つのこと」」>>
・第5回「心肺停止から蘇った医療ライター「仕事復帰までの道のり、退院後の生活で困ったこと」>>
Comment