観光の「許されない」再始動

 

こうした背景を抱えるからこそ、感染拡大防止が訴えられながらもGo Toトラベル・キャンペーンは半ば強引にでもスタートせざるを得なかった。インバウンドが見込めないコロナ禍で日本の観光産業は、ステイホームで家に籠もっていた人々を外に連れ出し、国内観光の需要に頼るしかありませんでした。

 

しかしその一方で、受け入れる側の観光業界に出された政府からのメッセージには厳しいものがあったことを本書では伝えます。

「7月22日のキャンペーン開始を目前にした7月17日、観光業界団体から感染防止策についての報告を受けた赤羽国土交通相はこう述べていた。
『今までの商習慣でこうしてきたということでも、この事業に参加する以上は許されない。
もう一度、総点検をして安全につながることはすべて取り入れてやってほしい』

この『許されない』という強い言葉は観光関係者にはことさら重く響いたのではないだろうか」

つまり、感染防止を主眼としたウィズ・コロナにおける新しい旅行業においては、これまでの観光業界の前例や慣習にとらわれることで、安心・安全が損なわれるようなことが絶対にあってはならないということです。

「おしゃべりをほどほどにして、味わうグルメ。」
「楽しくも、車内のおしゃべり控えめに。」
「おみやげは、あれこれ触らず目で選ぼう。」

こうした新たな旅のエチケットが旅行者に求められると同時に、観光客を受け入れる側にも大きな意識の変化・行動の変化が求められたのが、Go Toトラベル・キャンペーンだったのです。

「人々にとって観光は『不要不急』でも、この国はもう『観光なしではやっていけない』のである。『観光が倒れたら、国が倒れる』のだ。コロナ禍のステイホームのムードが終息して、人々が自然に『久しぶりに旅行でも行こうかな』と思い始めるのをのんびり待ってはいられないのが実情だったのである。

世論の逆風を押して強行されたキャンペーンの開始はその危機感の表れであり、一方で大臣の『許されない』という言葉は、政府の主導した観光の再始動が感染拡大のきっかけとなることだけは何としても『許されない』という、リスクと責任の重大さを表すものであったのだろう」