酒井順子さんのミモレ人気連載「ガラスの50代」書籍になりました! 2019年1月からスタートしたこちらの連載。帯や巻末には、ミモレ連載時に寄せられた共感コメントや読者アンケートの集計も掲載されています。書籍化にあたり、あとがきにかえて酒井順子さんよりフラジャイルな50代とこれからについて綴っていただきました。

 

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『ガラスの50代』酒井順子 ¥1550(本体)講談社


誰からもケアされないお年頃

コロナ騒動がまだ始まっていなかった頃に連載を始めた「ガラスの50代」が、この度、一冊の本となりました。大島依提亜さんによる繊細なデザインのカバーから漂うフラジャイル感というか薄氷感が、我々の心情を物語ってくれていて、お気に入りです。

世間から見ると、50代は「放っておいても大丈夫」という雰囲気が漂う年代のようだけれど、実は色々と繊細なんですよ。……ということを書いてみたこの本。特にコロナ時代となって以降、家で過ごす時間が長くなったのみならず、一人暮らしをしていた子供が実家に帰ってきて家事負担が激増したとか、親のケアがますます大変になったなど、50代の双肩には多くのものがのしかかっているのに、周囲からは、
「ま、大丈夫でしょ?」
と見られて、ケアされることはない。

ですから我々は、自分で、そして同世代の仲間同士で、せっせと自分達のケアをするのです。自分を癒すために美味しいお菓子やらいい匂いのする石鹸やらを取り寄せてみたり、友人同士で、
「大変ねぇ、あなたはよく頑張っていて偉い!」
と、互いを讃え合ってみたり。

本書にも書きましたが、仕事でも家庭でも突っ走ってきた人生の中で、50代はふと我にかえるお年頃です。職場においては、ガツガツ上を目指すというよりは、この先の立ち位置がだいたい、見えてくる。家庭においても、子供にさほど手がかからなくなってくる。……となって、ふと「では私は?」という気分が湧き上がってくるのです。

会社員でもなければ子もいない私にとっても、50代はそんな年頃。とりあえず溺れないようにとずっと泳ぎ続けてきたものの、このまま、この方向に泳ぎ続けていいのだろうか、この泳ぎ方でよかったのだろうか、との気持ちが募ってきました。


50代にとって最大の敵は「飽きること」


先日は、そんな50代の友人で集まって、公園でバドミントンをしてみたのです。コロナ以降、ジムにも行きづらく、またお店でランチをしながら長話、というのもどうねもぇ。……ということで、広い芝生のある公園でバドミントンをすることに。

それぞれ、子供がいたり介護が必要な親がいたり、大変な仕事があったり持病を抱えていたりと、色々なものを背負っています。が、青空に映えるシャトルを追っている間は、無心。キャーキャーと歓声を上げつつ走り回っていると、子供の頃に戻ったみたい。

周囲で遊ぶのは小さな子供連れの人ばかりで、我々のようなグループは他にいません。が、既に私達は「周囲からどう見えようと、どうでもいい」という感覚です。疲れ果てた後、近くのパン屋さんで買ったサンドイッチでランチとしたのですが、運動の後、芝生に座って食べるツナサンドの美味しさといったらありませんでした。

サンドイッチを咀嚼しつつ、
「いつまでこういうことができるのかなぁ」
と、話していた我々。そのうちにグルコサミン世代となって、「あの頃はバドミントンができていたのね」と懐かしく思い出すことになるに違いない。だとしたら、
「バドミントンもそうだけど、とにかくできるうちに色々としておかなくては!」
ということになった。

サンドイッチのデザートは、あんバターパンです。その甘さと脂肪分に酔いながら、私は前に読んだ上野千鶴子さんのインタビューを思い返していました。上野さんは、「50代にとって最大の敵は、他ならぬ『飽きる』こと。だからこそ、何かするなら新しいことを」とおっしゃっていたなぁ。確かに家事に飽き、夫に飽き、仕事に飽き……ということで、50代は「飽きる」世代でもあるのかも。

では生きることに飽きないために必要な「新しいこと」とは何なのかと、我々は芝生の上で語り合いました。新しい家を建ててみたい。恋がしたい。全く違う仕事をしてみたい。……等、色々な願望がほとばしりましたが、様々なほだしがある身の上では、人生を激変させるほどの新しさをいきなり導入するのは難しい、というのも現実です。

人の自由を束縛するものが、「ほだし」。しかしそれを漢字で書くと「絆し」となるわけで、家族や会社に縛られることによってもたらされる安心や安定もあるのです。
そして我々は、
「小さな新しさから始めるしかないのかもね」
ということになったのでした。公園でバドミントンをする、という小さな試みも、たいそう楽しかった。激しい恋におちたり、いきなり田舎暮らしを始めたりせずとも、行ったことのない場所に行ったり、話したことのない人と話したりというところから、新しさの窓は開けていくのではあるまいか。

……ということで、すっかりお腹も満ちた我々は、公園を出て、今まで通ったことのない道から、帰途につくことに。この道の先に、さらに新しい何かが待っているのかも……という希望を持つことによって、疲れた身体も少し、軽くなるような気がしたのでした。

 

<書籍紹介>
『ガラスの50代』

酒井順子 ¥1550(本体)講談社

グレイヘアをきらめかせ、好きに生き始めるお年頃。
なのに職場では怖がられ、恋の8050問題を抱え、母親はさらに重さを増す。

女性の生き方をリアルタイムで捉え続けてきた人気エッセイストのライフステージエッセイ、最新版。
「令和の50代」のリアルがここに!
Webマガジン「ミモレ」大反響連載、単行本化

巻末にミモレで実施した「読者大アンケート」結果を収録
「今、ハマっていることを教えてください」
「これから挑戦してみたいことを教えてください」
「誰にも言えない秘密を教えてください」
「50代までにしておいてよかったと思うことを教えてください」
「50代になったらやめた方がよいと思うことを教えてください」
「50代でできるようになったこと、好きになったものを教えてください」
ほか
アンケートにご協力くださったみなさん、ぜひチェックしてみてください!!

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