〔ミモレ編集室〕のゆけったです。
この冬はまだまだ家にこもりがちな日々が続きそうです。でもこんなご時世だからこその楽しみがあることも、また事実。
それは、コロナ禍で大きな打撃を受けている声の芸術「オペラ」。
大柄な歌手が棒立ちして歌っていたのは今や昔のお話。ビジュアル的にも魅力的な公演が、ネットでも自宅でも楽しめるようになっています。窮屈な生活を強いられる今だからこそ、オペラによるめくるめく非日常の華麗な世界を楽しんでみませんか。

 
スイスのチューリッヒ歌劇場。特に海外ではきらびやかな歌劇場内部も楽しみの一つ。でもあまり気負わずに出掛けて大丈夫です。(筆者撮影)

日本では曲がりなりにも各種公演が行われていますが、コロナ禍でエンターテイメント業界が大きな打撃を受けているのは間違いありません。クラシックも例外ではなく、飛沫感染のリスクが高いと考えられる声楽、「オペラ」は特に深刻な影響を受けています。しかし、だからこそ、これを機に、多くの方にオペラを好きになっていただきたいのです。

筆者は10年以上前からオペラに関心を持ち始め、まずは入門書を読み漁って、映像による鑑賞が日常となり、その後、実際の公演に足繁く通うようになりました。今では、家族とオペラのために仕事をして生活をしていると言ってよいほどにハマってしまっています。

オペラというと敷居が高いイメージがあるかもしれません。しかし、主要な観客は王侯貴族からブルジョワ、そして広く庶民と、時代とともに移り変わってきたものの、古くから人々の娯楽の一種であった訳で、ずっと舞台にかかっている演目(例えばモーツァルトのオペラであれば200年以上)には、現代に生きる私たちにも理解できる人の心、人の世の喜びや無常が描かれています。オペラは究極の総合芸術で、ソロ歌手によるマイクを使わずとも朗々と響き渡る声とオーケストラ、合唱、それをまとめる指揮者、衣装や舞台装置、演技を含めた演出と、魅力が贅沢なほどに満載です。

 


オペラってどう鑑賞するの?


オペラ鑑賞の醍醐味は、ずばり同じ演目のさまざまな公演を観ることです。話の筋自体、複雑なものは多くありませんが、お話と聴きどころはネットなどで予習した方が楽しめます。特に主要キャストがそれぞれ一人で歌う「アリア」は、その歌手が一番の精力を注いでいるので、字幕にくぎ付けではなく、ある程度内容を分かった上で、その歌手がどんな個性を持って演奏するのかを是非楽しんでいただきたいところです。新しい生活様式では控えることになりますが、アリアが終わったタイミングで「ブラボー!」の声がかかります。指揮者や演出、どの歌劇場の公演かでも雰囲気は随分変わりますので、そんな違いを味わいます。見方としては、ある程度よく舞台にかかる演目が限られる歌舞伎と似ています。

歌われている言語(イタリア語・フランス語・ドイツ語他)がわかった方がもちろん楽しめますが、これも歌舞伎と同じで、その言語がわかる人が聴いても必ずしも全部を聴きとれる訳でもないので、まずは細かいことは気にせずに、それぞれどういうシーンなのか味わってみるのがお勧めです。
 

「椿姫」の同じシーンを比べてみよう


デュマ原作、イタリアの作曲家ヴェルディ作曲の「椿姫」は、世界で最も上演回数の多いオペラです。初めて観るオペラとしても適しています。

パリに暮らす高級娼婦ヴィオレッタが、彼女を慕う青年アルフレードと生涯最初で最後の本気の恋に落ちますが、家の評判を気にする彼の父親に別れを迫られ、泣く泣く身を引きます。何も知らないアルフレードになじられ、愛も財産もなくした挙句、結核の進行で死にゆくというお話です。

一幕の最後、ヴィオレッタはこれまでに経験のない、アルフレードの心からの愛の告白にときめくのですが、そのために享楽的な人生は捨てられない、と我に返ります。この「(いつも自由に)花から花へ」はソプラノのアリアとして最も有名なものの一つです。いくつか実際の公演映像をご紹介します。
 

【例1】メトロポリタンオペラ(ニューヨーク 2020年)
ソプラノ:アレクサンドラ・クルザク

アメリカらしい若干ディズニーテイストの衣装とセット。感情もしっかり表しながら、高音も含めて誠実に歌い、温かみもある声。
 

【例2】ロイヤル・オペラハウス(ロンドン 1995年) 
ソプラノ:アンジェラ・ゲオルギュー

「椿姫」の定番と言われるクラシックな演出。ちょっとお転婆な歌い方に感じます。
 

【例3】メトロポリタンオペラ(ニューヨーク 2014年)
ソプラノ:マリナ・レベカ

これは簡素な舞台セットによる現代的な演出。クリスタルのような声で、高音が伸びやかですね。

歌手によっても、演出が違っても雰囲気が随分変わりますし、指揮者によってテンポも異なり、オーケストラもそれぞれの個性があるといった違いを少しでも感じていただけたでしょうか。ご自身の感じ方で構わないのです。オペラファンにとっては、こうした違いを、「あの歌手のあのシーンが絶品だ」とか、「あの指揮者のヴェルディは鉄板だ」とか、語り合うのが至福のときです。

 
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