待ち伏せ……?年下イケメンの強引な提案

DVから逃げた40歳主婦の生々しい体験談「怒りを通り越して吐き気が...」スライダー3_1
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美穂と別れ、赤坂に戻った早希は、自宅近くのワインバーに立ち寄ることにした。

話に夢中で、カフェではコーヒーを頼んだだけ。そのコーヒーもほとんどを残したまま冷たくなってしまった。

美穂はしばらく実家で暮らすという。それを聞いて安心し、緊張が解けたら小腹が空いた。それに、アルコールで気持ちを落ち着けたかった。

しかしながら店内に入った途端、早希の心は落ち着くどころか大いにかき乱された。というのも、馴染みのカウンター席に北山隼人が座っていたのだ。

「あ。やっぱり来た」

早希を認めた隼人が悪戯っぽく笑う。目を丸くしていると、彼は慌てた様子で弁解を始めた。

「別に待ち伏せしてたわけじゃないですよ。偶然、たまたま……そう、またこの店で飲みたくて寄っただけです」

「そう……なんだ」

確かに以前もこの店の前で隼人と鉢合わせた。せっかくだからと二人で飲んで……その後の失態はもう思い出したくない。

それにしても、隼人の家はこの辺りなのだろうか。違った気がするが、あえて突っ込むのはやめた。

「あの……今日はごめんね、約束してたのに。それで、その、話ってなんだった?」

促されるまま隣席に座り、さりげなく尋ねた。迷う余地もなく美穂を優先したものの「話したいことがある」と言った隼人のことはもちろん気になっていた。

「僕も、その話がしたくて」

視線を泳がせる早希を、隼人が遠慮なく覗き込む。

「驚かせちゃうと思うけど、率直に言いますね」

改まる彼に、ゴクリと唾を飲んだ。息を止めたまま続きを待っていると、隼人は真剣な表情のまま予想外のセリフを口にした。

「進藤さん、転職する気ないですか?」

「へ……?て、転職……?」

思ってもみなかった言葉に頭が真っ白になる。転職?つまり、今いる編集部を辞めて他に移らないかって、そういう話……?

第一希望の出版社に就職し、憧れだった女性誌のエディターとして早17年のキャリアを築いてきた早希。アラフォーになった今から別の仕事なんて、正直まったく考えられない。

「えーっと、転職とかは別に……」

しかしあっさり断ろうとしたとき、隼人が再び口を開いた。

「僕の知り合いが新しくWEBメディアを立ち上げるんです。いまスタッフを集めているところで……僕としては、ぜひ進藤さんをプロデューサーに推薦したい。絶対に適任だと思うから」

――WEBメディア……の、プロデューサー?

あまりに突拍子のない提案で、面食らってしまった。確かにもう紙の雑誌の時代ではないのかもしれない。ファッション誌は完全に斜陽だ。それゆえ早希が担当するアラサー向けファッション誌も月刊廃止になった。

しかしずっと雑誌の世界で生きてきた自分が今さらWEBメディアなんて……。

「コンセプトが素晴らしいんです。一方的な発信じゃなく、コミュニティ機能メインの情報サイトという位置づけで。成熟した大人が、自分らしく、強くしなやかに生きるためのヒントを得られるサイト。話を聞いて、僕は真っ先に進藤さんの顔が浮かびました」

――無理だわ。早く断らなくちゃ……。

しかし隼人があまりにも熱を込めて話すので、早希は「NO」を口に出せなくなってしまった。

NEXT:1月24日更新
ついに別居に踏み切った美穂。けれど、次々に直面する辛い現実……。

 
撮影協力/ララ ファティマ表参道ブティック
撮影/大坪尚人
構成/片岡千晶(編集部)