40歳という節目で、女性は自らの生き方を振り返るものではないでしょうか。
「こんなはずじゃなかった」と後悔しても過去は変えられず、心も身体も若い頃には戻れない。
これは立場の異なる二人の女性が、それぞれの人生を見つめ直す物語。
***
「専業主婦は離婚できない」という固定観念
目が覚めると、目の前に息子の寝顔があった。
小学生になりだいぶ成長したと思うけれど、こうして寝顔を見ると、まだまだ赤ちゃんの頃の面影がある。白く膨らんだ頰に、さくらんぼのような唇。艶やかなまつ毛に寝癖のついた髪。子どもの寝顔は幸福の象徴のようだ。
昨晩、この家が修羅場と化したなんて信じられない。
夫は暴力と暴言をひとしきり吐いた後、今度は焦ったように謝罪と言い訳を繰り返した。
けれど強いショックを受けた湊人はひどく怯えていて、美穂は息子をなだめながら一緒に眠ってしまったのだ。
湊人を起こさないように、そっとシングルベットから抜け出す。
バスルームで恐る恐る鏡を覗くと、右の頰が少しばかり赤くなって膨らんでいた。けれど、明らかに目立つものでもない。
口角を上げて微笑んでみると口の内側に痛みが走ったが、それも耐えられないものではなかった。
――文句があるなら出てけよ――
昨晩の夫の言葉が蘇る。
この家から出ていく。そんなことが本当に可能だろうか。
過去にもそう思ったことは何度もある。しかしその度に「そんなの無理に決まってる」「子持ちの専業主婦が、離婚などできるわけがない」と自分の気持ちに蓋をしていた。
けれど今、美穂の心は大きく揺れ始めていた。
【写真】可愛い子供に裕福な生活……自由のない専業主婦・美穂は幸せ?
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