SNSの声から社会問題へ。ジャーナリストがコロナ禍で感じた「匿名性」の可能性_img0
 

2020年は誰もが想像していなかったような1年になってしまいました。そして中国武漢での新型ウイルスの存在が報じられてから丸1年が経って、2021年も先行きが見通しづらいスタートとなっています。

 

私は現在海外在住で、もともと日本と行き来をして仕事をしていましたが、2020年は予定していた一時帰国の予定を全て諦めました。かつてなく、実際に現場に足を運んで人に会えることの貴重さを感じた一方で、遠隔でできることの可能性も大きく感じました。

2020年、私は日本のCtoC(※編集部注:Consumer to Consumerの略で、個人間取引の意)のプラットフォームを舞台に起きた複数の性犯罪について取材をし、記事を書いてきました。その動きは署名活動や関係者の記者会見をもたらし、実際に国の制度を変えるべきだという省庁の専門家会議の議論にもつながりました。

もちろん本来であれば日本に飛んで直接お会いしたかった被害者の方々がいましたし、傍聴したかった裁判等もありましたが、一方で遠隔での取材にほとんどの人が抵抗なく、問題なく応じてくれたと感じています。

そして、この1年はSNSでの誹謗中傷が問題視され、コロナ禍でのいわゆる自粛警察は「正義の暴走」と言われるなどしましたし、この問題を取り上げた書籍の出版も多かったように思います。SNSはすぐ炎上する、極端な人たちが多い場所だというイメージがあるかもしれません。

SNSの声から社会問題へ。ジャーナリストがコロナ禍で感じた「匿名性」の可能性_img1
 

確かにSNS上での議論には難しさがあることは私も感じていますが、一方で私はSNSがあるからこそ出てくる、耳を傾けるべき「声」についても注目していたいと思っています。

CtoCのプラットフォームを舞台にした性犯罪事件で、その被害を告発してくれた利用者や働き手が、何を通じて「声」をあげたかというと、Twitterです。

私が関連の問題について発信していることを知り、DMをしてきてくれたり、こちらからも、Twitterで関連用語のツイートをしている人に取材のお願いをしたりと、取材にSNSは大きく貢献してくれました。


その人の持っている情報に信ぴょう性があり、証拠を確認でき、また関係者ではないと分からないであろう証言が複数の人物から聞くことができれば、必ずしも全員にお会いして、名前や年齢を聞く必要もないと感じました。

むしろ、対面の約束をして記者が会いに来るとなると、その約束に向かう間にも、加害者に身バレしたら……など色々な心配が上がってきて、足が進まなくなってしまう可能性もあると思います。

書く側としても最も大事なのは取材源の秘匿なのでそれについては細心の注意をはらいますが、情報提供者にとってハードルが高くなれば、泣き寝入りも増えてしまう。そのような意味で、SNSにアップしてみる、まず声をかけてみるということは、MeTooムーブメントのような力強い動きにならなかったとしても「スピークアップ」の方法として有効であると思います。

ジャーナリストも個別性が強い案件、専門分野外など、告発があったものすべてに対応できるわけではないものの、弁護士に相談するにはお金がかかる(無料相談を受けている事務所もあります)、法律上は問題がないゆえに被害が明るみにでなければまた別の被害者が出かねない、消費者センターにも連絡はしたが企業は改善しているように見えない……などの事案は、関連する問題で発信しているジャーナリストにSNSで声をかけてみるというのも、「声」の上げ方として知っていてほしいと思います。

顔や名前を知らなくてもつながれる。対面でなくても情報交換ができる。コロナで外との行き来がしにくい中で、改めてインターネットやSNSの本来の良さの部分も見つめなおし、生かしていけるような2021年にしていきたいです。

前回記事「【緊急事態宣言・自宅待機】“対面じゃなくていい”が世界とつながるきっかけに」はこちら>>