生まれ育った田舎から出たことがなく、気づけば28歳。自分はバイトなのに、周りの友達は結婚して子どもが生まれ……、と、じわじわと不安が押し寄せる。追い打ちをかけるように、付き合っていたはずの彼氏が実は……、なんてことになった日には! 漫画『上京したあの子』の主人公・美冬はまさにそんな状態に陥ってしまい、逃げ出すように上京を決意。30歳を目前に、生きづらさを抱えた彼女がどんな人生を選択するのでしょうか? 

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『上京したあの子』(1) (Kissコミックス)


『上京したあの子』の主人公・美冬は28歳。北海道の小さな街で生まれ育ち、実家暮らしでカフェのアルバイトをしています。東京から転勤で来たゆうちゃんと意気投合して付き合い始めるものの、彼が東京に戻る時、一緒に連れて行ってもらえると淡い期待を抱いていたにも関わらず、「この町が似合ってるよ」という台詞を残して、あっさり去っていってしまいました。

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地元の友達は心配してくれているようでいて、どこか他人事。地元を一度も出たことのない美冬が、東京に行っても一人じゃ何もできないと断言されます。また、ゆうちゃんとは遠距離恋愛中のはずなのに、彼の態度はそっけなくなる一方。美冬は彼を驚かせようと連絡せずに東京に行くことにします。

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初めて一人で飛行機に乗り、スマートフォンの乗り換えアプリを頼りに、彼が住む最寄り駅まで向かう美冬。そこで偶然彼の姿を見つけられたものの、駆け寄る妻と子の姿を目の当たりにしてしまいます。

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失意のうちに北海道に戻ったものの、仲良しグループの友達からは結果的に「不倫」であったことを非難され、知り合いに言いふらされ、と散々な目に遭ってしまいます。友人を失い、居場所も失った美冬は、「追い出されるくらいなら、自分から出ていこう」と東京行きを決意します。

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知り合いがいない、仕事がない、お金もない、というないないづくしの美冬は、不動産屋から、駅から徒歩20分という立地の一軒家シェアハウスを紹介されます。なんとか拠点を見つけた美冬のもとに、似たような境遇の地方女子たちが入居し、物語は動き始めます。

 

地方では、「みんな小さい頃から知り合いで、気楽。勝手知ったる場所で居心地がいいし、地元を離れるなんて考えられない!」と思う人がいる一方で、なまじ知り合いが多いばかりに誰かの噂話ばかりで、時には自分がネタにされることもあり、閉塞感に押しつぶされそうな人もいます。この物語は地元ならではの息苦しさがリアルで、地方出身者なら共感できそうなことが随所に散りばめられています。

彼氏と思っていたのに実は既婚者だったというひどい出来事ではありましたが、28歳まで実家や昔からの友達に甘えてきた美冬が、ようやく自分の足で一歩踏み出すきっかけになったと思えば、後から振り返れば無駄ではなかったと思えるはず!(と美冬を励ましてあげたい)。美冬と、同じように地方の息苦しさから逃げ出したシェアハウスの住人たちの成長が楽しみ、という親戚のおばさん目線で応援したくなります。また、自分の居場所は地元だけでなく、自分で見つけて作ることができると思うと、前向きな気持ちにもなれます。「ハツキス」に連載されていましたが、2020年11月に完結し、12月に4巻最終巻が電子書籍で発売。4巻一気に読めてしまいます!
 

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『上京したあの子』
志真てら子 講談社

転勤で北海道に来ていたあの人と出会って、恋をして。でも東京に戻ることになった彼は、一緒にいこうとは言ってくれなかった。そして、その理由がわかったあの日、それまでの自分の何かが変わった。