私の役割は、当たり前だと思われていることに“水を差す”こと
今回、WOWOWでドラマ化をされることになった『世にも奇妙な君物語』。ドラマ化が決定したとお聞きになったときの感想を伺いました。
朝井:まず、フジテレビ以外の放送局でこのタイトルそのまま使えるんだ!と思いました。というのは半分冗談で、文庫本をたくさんの方が読んでいただいたことがきっかけとなり、「ドラマ化のチャンスがあるのでは」と講談社の方々が動いてくださったんですね。それが結実したと思うと本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
今回のドラマは本家の『世にも奇妙な物語』同様、5話トータルで2時間30分程度の長さとなっています。朝井さんはそれも計算したうえで、各話を構成していったそう。
朝井:トータルで2時間程度と考えると、1つの作品が原稿用紙で60~70枚くらいになります。そうするとシーン数としては5~6くらいです。会話がメインのシーンが多くなるかも、いやCMを挟むとどうなるんだろう……、とか。果たしてどのくらいの分量がベストなのか、今書いている分量では足りないのではとか、とにかくアレコレと試行錯誤しながら書きました。
その中で朝井さんは「ひとつ気が付いたことがありました」と話してくださいました。
朝井:例えば学園ドラマを観ていると仮定してください。若い教師が主人公で、その学校が意地悪な理事長のせいで合併されちゃうみたいな話が持ち上がっている状況だとします。ドラマだと理事長と校長が密談をしているときに、何の前置きもなく主人公の教師がその場に立ち合って啖呵を切ったりするのですが、小説だと、その若い教師がどうしてその場にいることができるのか、という理由を解決しないとならない。そういったこだわりが自分の中にあるんです。主人公がその日その場所にいることを理由づける作業が大変で、そこにいつも時間がかかるのですが、『世にも~』は、それをしなくていい。何の説明もなくポーンととてつもないことが起きても、別に問題ないんです。理由付け不要で好きなシーンを書けるというのは本当に快感でした。
『世にも奇妙な君物語』には“現代風刺”を取り入れながら執筆された朝井さんですが、普段の作品作りにはどういう信念をお持ちなのかを、改めて伺ってみました。
朝井:常々「言葉にはいろんな面がある」と思っています。あるひとつの側面だけがバ―っと広まっている言葉や現象、概念みたいなものがあるとしたら、私が最近やっているのは、そこに“水を差す”ことかもしれません。今回の作品で言うなら『13.5文字しか集中して読めな』は短い文章に収めすぎていることへのストレートな警鐘ですが、『リア充裁判』では、“リア充”を馬鹿にしている人たちに水を差す展開になっています。今でいう“陽キャ”とか“バーベキュー”とか“ナイトプール”とかって、なぜかバカにしていい雰囲気がありますけど――という。そういう、ある一面の印象が強い言葉や現象をつぶさに描写してみたくなるんです。
そう話しながら、朝井さんは「いつまでこのスタンスで走るのだろう、と思うことはあります」と続けてくださいました。
朝井:私の作品は読んでいてあまりいい気持ちにはならないことが多いと思うし、私自身、読者に「素敵な気持ちになってもらおう!」と考えていないところがあります。以前、ある同業者の方と話したときに、「自分も昔はそうだったけれど、どんどん人の嫌なところとかが見えなくなってきてしまった。年齢を重ねれば皆そうなっていくと思う。そんな中であなたはまだその島に居ることができるんだから、最後のひとりになるかもしれないけど、居られるまで居続けてみたら?」と言われたんです。私もきっとそのうち「次世代の少年少女に夢と希望を与えたい」みたいなことを言い始めると思うんです。どうせいつかそうなるんなら、可能なうちは、人のイヤなところを細々と書いたり世間に水を差したりしようと思います。
その“人のイヤなところを細々と書いた”作品が、田中麗奈さんが主人公を演じた『13.5文字しか集中して読めな』です。
朝井:題材はネットニュースです。物語の構造は“日本昔話”的なシンプルなものですが、その中で書いた、憧れてマネをしていた上司が突然全然違う方針で動き始めちゃうシーンとか、主人公が家族に対して「あなたの仕事って私のそれと比べて大した影響力はありませんよね」と感じてしまうシーンとか、そういう部分を気に入っています。家庭のある主人公が社内にいる元恋人とふたりきりになるシーンも、私は好きです。
わかってるんです、皆さんが忙しい日常で絞り出した余暇の中で、本やドラマを読んだり観たりしてくださっていることは。学生さんなんて、少ないお小遣いの中で選びに選んで本を買ってくれてるんだろうな、とか。でも、だからといって「素敵な気持ちになってもらおう!」というモチベーションでは書けない今の自分を、いつか失ってしまうだろう貴重なものとして取り扱いたいんです。それに、全員が同じような役割でモノ作りをするのも不健康ですよね。私には私の役割があるはず、と、自分自身を正当化させています。
朝井さんが言われた“日本昔話的要素”というのは、実際にドラマを観ると「確かに!」と得心がいくはず。誰かが水を差してくれなければ自分では気づけないことは、あまりに多すぎる気もします。
朝井:なんでお前に水を差されなきゃいけないんだよ! という感じだと思いますが、別の角度から物事を見つめる重要さは自分自身に言い聞かせているところでもあるので。もうこの小説を書いてから六年経ちますが、今では短くまとめられたネットニュースのタイトルが誤解を生むどころか、タイトル以上の内容がない記事も多いですよね。変化を感じます。
最後に、『世にも奇妙な君物語』をこれから読まれる方、そしてドラマを楽しみにしている方へメッセージをいただきました。
朝井:小説やドラマに触れるときって、「今の社会を学びたい」とか、「現実を忘れて単純に起承転結を楽しみたい」とか、「楽しい気持ちになりたい」とか「思い切り落ち込みたい」とか、いろんな動機があると思うんです。今回の作品はそれぞれの動機が少しずつ満たされるようなものになっているはずなので、ぜひ最終話まで読んで、または観ていただいて、なるほどこういうことがやりたかったのかと思っていただけたら。最後まで辿り着いてもらえれば、きっとそんなに後味悪くないはずです!
3月4日には、「13.5文字しか集中して読めな」の主演を務めた田中麗奈さんのインタビューをお届けします。
朝井リョウ
小説家。1989年5月31日生まれ、岐阜県出身。2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞して作家デビュー。2012年には『もういちど生まれる』で第147回直木三十五賞候補に。翌年、『何者』で第148回直木三十五賞受賞。直木賞受賞後の第一作『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。近著に『発注いただきました』(集英社)『スター』(朝日新聞出版)など。3月26日に新潮社より新刊『正欲』を上梓の予定。
<ドラマ紹介>
WOWOWオリジナルドラマ
『世にも奇妙な君物語』
(全5話)
直木賞作家、朝井リョウの同名短編小説を黒島結菜、葵わかな、佐藤勝利、田中麗奈、上田竜也の主演でドラマ化!5人の主役が、どんでん返しだらけの世界に迷い込んでいく。
黒島結菜演じるフリーライターがシェアハウスに潜入取材する「シェアハウさない」、葵わかな主演の「リア充裁判」、佐藤勝利(Sexy Zone)が幼稚園教諭に扮する「立て! 金次郎」、田中麗奈が主演を務める「13.5文字しか集中して読めな」、上田竜也(KAT-TUN)がオーディションに挑む役者を演じた「脇役バトルロワイアル」の5つのエピソードで構成。
WOWOWオリジナルドラマ「世にも奇妙な君物語」は3月5日にWOWOWプライム、WOWOW4K、WOWOWオンデマンドで放送・配信スタート。
※第1話無料放送 ※ホームページにて第1話を期間限定で配信中
構成/川端里恵(編集部)
Comment