わふこさんはその後、本格的にホルモン療法を開始。女性の姿になるために努力するわふこさんと毎日を共にする中、つしまさんはふとある光景を思い出します。それは、2人が結婚記念の写真撮影をした時のことでした。

 

ウエディングドレスを着て嬉しそうなつしまさんの横で、切ない眼差しでドレスを見つめる夫・わふこさん。当時、男性のフリをして暮らしていたわふこさんは、憧れていたであろうドレスではなく、新郎用のタキシードを着て撮影に臨んだのでした。

 

「知らなかったとはいえ、残酷だったと思う」と当時を振り返るつしまさん。わふこさんが本心を打ち明けてくれた今だからこそ、もう一度記念写真を撮影しようと提案します。もちろん、今度は2人でウエディングドレスを着てーー。

 

実は妻のつしまさんは、恋愛対象に性別を問わないパンセクシャル(全性愛者)。わふこさんの告白をすぐに受け止められたのは、そんな自分のセクシャリティも関係しているといいます。

「夫が実は女性だった」という衝撃の事実を受け入れられない人もいる。かつてのわふこさんも、自分がトランスジェンダーであることを周囲に知られたくないがために、ゲイを公言する友人にひどい言葉を投げかけたこともある。批判する人にも実はさまざまな背景があるのだと、つしまさんは考えます。

 

それでも、一人でも多くの人がLGBTQのことを知り、それぞれの個性を認め合えれば、いろんな人たちがもっと生きやすい社会になるはず、と教えてくれる2人。その姿に勇気をもらえると同時に、人知れず悩む身近な誰かを傷つけていないか、世間の“ふつう”を誰かに押し付けていないか、そっと自分の胸に手を当てて考えたくなる一冊です。

 

『夫は実は女性でした』
著者:津島つしま 講談社 990円

結婚8年目にして打ち明けられたのは、夫がトランスジェンダーであり、心が女性であるという事実。妻である著者は、そんな夫の背中を押すことを決めます。男性を演じて生きてきた夫の辛い過去、そして自らも不器用な人生を送ってきた妻。でこぼこな2人が織りなす愛とユーモアあふれる暮らしの中には、多様性を受け入れ、楽しむためのヒントが詰まっています。


構成/金澤英恵
この記事は2021年3月10日に配信したものです。
mi-molletで人気があったため再掲載しております。