3月になり、保育園から大学まで、卒業シーズン真っただ中。
しかし、コロナウィルスの感染拡大はいまだ収束せず、東京都をはじめとした一部地域では、いぜん緊急事態宣言が続いています。卒業式も地域によって短縮進行になったり、保護者の出席制限が設けられたりと、自粛しながらの開催になっている状況です。
昨年2020年に続き、今年2021年も、コロナ禍の中で迎える卒業シーズンとなってしまい、若い世代の門出を盛大に祝えないのはとても残念です。でも、彼らにとって「卒業式」が人生の節目となる、大切な行事であることには変わりませんよね。
この記事では、そんな今だからこそぜひ読んでほしい、新しい道を歩き出す人に贈りたい絵本をご紹介します。
卒業の日に思う、「ありがとう」って?
絵本『ありがとう』は、谷川俊太郎さんの詩「ありがとう」から着想をえた作品です。
人気絵本作家のえがしらみちこさんが、"卒業の日に「私」が思うこと"というイメージを膨らませ、一冊の絵本にしあげました。
「ありがとう」は、感謝をテーマにした短い詩。
4つのパートで構成され、空に、花に、お母さんに、そして自分に「ありがとう」を告げる内容です。
いつも私の上にある「空」、今日も咲いていてくれる「花」、私を産んでくれた「お母さん」……。
<私>をとりまく世界の美しさ、存在の確かさ。その一つ一つに対するみずみずしい喜びと感謝が、平易な言葉でつづられていきます。
そして最後に、「私」は気づくのです。
でも誰だろう 何だろう
私に私をくれたのは?
私が私でいること。それって、どういう事なのでしょう? いったい何が、私を私にしたのでしょう?
谷川さんの詩は、やさしい表現で、きわめて哲学的な、深い問いを投げかけます。そして詩は、こんな言葉で終わります。
限りない世界に向かって私は呟く
私 ありがとう
世界と、そこ在る「私」。そのつながりの各々を見つめなおすことで、静かに、感謝の気持ちが湧き上がってくる……。
不安の尽きない世の中ですが、「世界」は変わらず存在し、私は「私」として生きている。ただそこに在って、生きて……。そうした日々の積み重ね、小さな営みの一つ一つが愛おしい。そんな気持ちになれる作品です。
この名詩「ありがとう」を、卒業のイメージで描き出したのが人気絵本作家のえがしらみちこさん。
みずみずしいタッチが魅力のえがしらさんは、透明感のある絵柄を活かし、かわいらしい幼児向け絵本から、『せんそうしない』(谷川俊太郎:文)、『おかあさんのいのり』(武鹿悦子:文)など、シリアスな作品まで、幅広く手掛けている、今注目の絵本作家です。
そんな彼女が、大好きな詩に絵をつけたいと、谷川さんへ直接かけあって実現したのが、この絵本『ありがとう』なのです。
えがしらみちこさんからのメッセージ
これは、谷川俊太郎さんの詩のなかで、私が大好きな詩です。
「私 ありがとう」だなんて、
これまで生きてきて口にしたことがない言葉だけれど
つぶやいてみると、静かな覚悟のようなもので心が満たされます。
世の中は、自分の力ではどうにもできないことも多いですが、
当たり前の日々や環境に気持ちを向けてみてもらえたら…と思い、
この詩に絵を添えさせていただきました。
人生の節目を迎えるたびに心の中にポッと浮かび上がって、味わってもらえたら嬉しいです。
(講談社絵本通信より)
試し読みをぜひチェック!
▼横にスワイプしてください▼(実際の絵本は左開きです)
『ありがとう』
谷川俊太郎:詩 えがしらみちこ:絵
『せんそうしない』の二人のコラボふたたび! 谷川俊太郎の名詩を、えがしらみちこが"卒業の日に「私」が思うこと"というイメージを膨らませ、一冊の絵本になりました。新しい道を歩き出す人に贈りたい、珠玉の絵本。
構成/北澤智子
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