「調停パーティー」のサプライズ
「美穂!調停おつかれさまー!!!」
パンパン!と弾けるようなクラッカーの音に、美穂は思わず目を瞑った。
「え……?」
六本木のグランドハイアットのフレンチキッチンの個室に一歩足を踏み入れた瞬間、まず目に飛び込んだのはカラフルなバルーンアートだ。
そしてお馴染みの早希、絵梨香、朋子の3人とカメラマンの隼人が、すでに赤い顔をして拍手で美穂を迎える。
「今日はサプライズのお祝い!調停、今回は無事終わったんでしょ?とりあえず、大きな一歩を踏み出した美穂にカンパーイ!!」
すると今度はグラスの重なる小気味の良い音が部屋に響いた。
「うそ……やだ、サプライズなんて……。どうしよう、本当にありがとう……」
無理やりグラスを持たされたものの、驚きと嬉しさで視界が歪む。
美穂は感極まり顔を覆ってしまったが、そんな姿も隼人はスマホの動画に収めているようで、まるで仕事のように機敏に女たちの周りを動き回っている。
「ねぇ隼人、ちゃんとフィルター使って綺麗に撮ってよ?若いモデルと違うんだから」
「分かってますよ。でも皆さん、本当にお綺麗ですよ」
二人の会話を視界の端で伺いながら、美穂はつい口元が緩む。
先日三人で食事をしたときは、ギクシャクと煮え切らない様子で会話を続けるカップルを心配もしたけれど、思ったよりずっと上手くいっているようだ。
やけに歳の差を気にしていた早希だが、二人の様子を見る限り、むしろ隼人にうまく転がされているような印象もあった。
「ねぇ、いくら付き合いたてだからって、人前でイチャつくのやめてくれない?」
「やめてよ、そんなんじゃないってば!!」
すると絵梨香が冷やかに言い放ち、早希の顔はたちまち真っ赤になる。
こんなやりとりを20年前の学生時代から何度繰り返しただろう。
時が経っても変わらない友情が、美穂は誇らしくてたまらない。
「で、肝心の調停はどうだった?順調に進みそう?」
朋子の冷静な一言に、全員が美穂に注目した。
「それは……やっぱり簡単ではなさそう」
面会交流では従順な姿勢で現れた貴之だが、調停では一転、彼は離婚に合意しないときっぱりと主張した。
もちろん美穂も引き下がるわけではないが、離婚に対する意思、親権、財産分与、養育費など、すべてにおいて合意が取れない限りは離婚成立には至らない。よって長期戦は覚悟せざるを得なかった。
「そっか……」
すると食卓がシンと静まり返ってしまったため、美穂は慌てて笑顔を作る。
「でもね、そんなに気にしてないの!私の理想は、あくまで穏便な離婚成立だから。時間がかかるのは仕方ないと思って、その間に自立の準備をしっかりするつもり。幸い婚姻費用は貰えるから」
「でも……ほら、透さんは?せっかくイイ感じになったのに」
早希が控えめに言う。他のメンバーも透について聞きたがっているのは明らかだった。
そこで美穂は、小さく深呼吸をして答えた。
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