自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。DVサバイバー・Aさんは、酒乱の夫からの身体的・経済的DVで孤立無援の状態に。とうとう主婦売春にまで手を出してしまい、その翌朝仕事に行ったきり二度と家に帰らなくなりました。Aさんの気になるその後のお話です。

※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります

 


息子からの手紙に書かれた衝撃的内容


眠れない、食べられない、息ができない、働けない、お金がない、相談できない、助けを求めることができない。

夫からのDVで追い詰められ、精神に異常をきたして家に帰ることができなくなったAさん。家出2日目で夫名義のスマホは使えなくなりました。連絡手段も保険証も現金もない。体を売りながらしばらくネットカフェで過ごしたものの、客にだまされお金を払ってもらえなかったりすることも多く、状況は悪化するばかり。

唯一、全てを忘れて没頭できるのがパズルゲームだけという中、ゲーム越しに仲良くなった人に現状を打ち明けたところ、その彼が全面的にAさんを支援してくれることになりました。

プリペイド携帯を契約してくれ、アパートの保証人になり、Aさんを福祉につなげ、夫に取り上げられていた保険証に代わって国保に入れるよう特別な手続きをしてくれたり、生活保護を受けられるようにまでしてくれたのです。

生活基盤が整い、精神科に通えるようになったAさんはその彼の勧めで弁護士を頼み、やっと離婚手続きに着手したものの、もはや、手遅れ。

夫は警察に行方不明者として届けを出し、あちこちのSNSに「借金と子どもを残し行方不明になった妻を探しています」と投稿、我こそが被害者という立場を確立させていました。

実際に、子供を置いて家出をするということは法的には育児放棄とみなされ、有責事由つまりは慰謝料の対象とされ、親権を取ることが大変に難しくなります。そして精神的DVは立証が難しく、できたとしてもそれが離婚事由として認められるかは裁判官のさじ加減一つ。不法行為に対してでないと慰謝料請求できないため、精神的DVについてそれ一つひとつの行為を不法かどうか争うことになると勝てる見込みも限りなく低いのです。

そのため、Aさんは離婚調停さえできず、1年かけて弁護士を通じ交渉を重ね、相手の言うままに引っ越し代や借金の返済分、家財の処分費用など100万円近くを支払い、親権どころか年金分割さえなしという条件をのんで、やっと離婚にこぎつけたといいます。

 

離婚成立時、事務所で夫と最後に話したというAさん。そのとき突きつけられたのが「もう2度と会いたくない、顔も見たくない、地元から出て行って欲しい」という息子からの手紙でした。

そしてそれから一度も息子には会えていないと言うAさん。地元にいる親族を通じ、息子の様子だけは聞いているといいますが、やはり荒れた思春期を送った様子だったそう。

でも当時のAさんにはそれ以上できることがありませんでした。精神科で処方された大量の薬で当時、その後の記憶はまばらになっているほどだったからです。そしてAさんの話はなんの救いもなくここで終わりです。

 
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