自らもDVサバイバーでシングルマザーのソーシャルライター・松本愛さんが、DV当事者の「声」を丹念に拾い上げ、日本のジェンダー意識の遅れの実態をレポートします。DVサバイバー・Aさんは、5年付き合った男らしい彼氏と結婚。可愛い男の子も生まれ、幸せな生活が続くかと思いきや……。
※個人の特定を避けるためエピソードには脚色を加えている場合もあります
「男らしさ」が仇になり仕事が続かない夫
とある港街に住んでいたAさん。
Aさんと夫の結婚を反対していたAさんのお母さんの逝去により籍を入れ、始まった2人の結婚生活ですが、お母さんが心配していた通りその生活はうまくは行きませんでした。
上司に物おじせずハッキリ意見を言えた夫。最初は男らしく見えた彼のその性質は、裏を返せば上司とうまくやれず仕事が続かないという欠点でもありました。失業・転職の繰り返し。無職の期間が長くなるにつれ、だんだんと家にお金を入れてくれなくなり、Aさんは次第にお金に困るようになりました。家にいる夫が子供の面倒をみてくれればAさんが働きに出られるのに、それも許されません。
子どもがグズると夫の機嫌が悪くなるので2人を遊ばせるときは常に細心の注意をはらって見守り、たまにお風呂に入れてくれると言ったかと思えば、子供を残して1人で風呂から出てくる。慌てて風呂場に駆けつければ我が子は桶に入れられ湯船にぷかぷか浮いている有り様。かといって子どもとAさんが2人で風呂に入っていれば、わざわざ風呂場のドアをバーンとあけて「酒がないぞ!」と空のグラスを持ってくるのです。
お金がないのに1.8Lのキンミヤ焼酎は2本、ビール1ケースが1週間で空になり、つまみは常に3品以上作ることを求められました。もちろんお夕飯とは別に。
そのため幼い子どもと父親を2人きりにはできませんでした。保育園の集まりにもアルバイトにも必要なときは必ず子どもを連れていくしかないのに、すると夫は「なんで家にいないんだ」とどこにでも2人を探しに来ました。ある日そうやって現れた夫は無理やり子どもを連れ帰ってしまい、慌てて追って家に戻ったものの間に合わず、チェーンをかけられAさんは家から締め出されてしまいました。
その晩、子供を心配しながらも朝まで浜辺で体育座りして過ごすしかなかったAさん。
ところが子供が小学校に入るとPTAの仕事や登下校の旗振りなど、断れない用事が増えます。するとそのたびに締め出されるようになりました。締め出されるのはまだ一人で我慢すればいい。でも旗振りにやんちゃ盛りでじっとできない低学年の子ども連れていくのはさすがにできず、途方に暮れて一度だけ近所の人に相談したといいます。すると子連れで旗振りができるよう、ハーネスの代わりに犬用の鎖を貸してくれたご近所さん。Aさんは提案されるがまま自分と息子を繋いで旗を振りました。
しかし、それを見た近所の女性陣はさすがに黙っていませんでした。港の女は気性が荒い。勢いよく夫に抗議をしてくれましたが、それにより事態はより悪化しました。
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