大人のたしなみとして「悪口を言わない」ことを実践している方は多いと思いますが、知らず知らずのうちにちょっとした好き嫌いですら言いづらい雰囲気になってしまい、窮屈な思いをしていたりしませんか? 

有名な小論文講師であり、ベストセラー『頭がいい人、悪い人の話し方』でも知られる樋口裕一さんのエッセイ『「嫌い」の感情が人を成長させる ─考える力・感じる力・選ぶ力を身につける』には、好き嫌いをはっきりさせること、特に「嫌い」という感情をしっかり持ち、伝えることの重要性が説かれています。

空気を読むことが何かと重要視される昨今、場を乱しがちな「嫌い」をなぜ大切にしなければならないのか? 気になる中身を見ていきましょう。

「みんな仲良く」は抑圧的?「嫌い」を言えない日本社会の息苦しさ_img0
 


「嫌っている自分」を責めることの弊害


近ごろ「嫌い」な人や物を表明する人を見かけなくなったのは、多くの人が「嫌い」という感情を持つこと自体を嫌悪するようになったからかもしれません。しかし、著者からするとその風潮は自然の摂理に反していて、さまざまな弊害を生んでいるようです。

 

「多くの仕事場で多くの人が上司や先輩や同僚を心の中で嫌いと思いながら、嫌ってはならないと自分にいい聞かせ、好きにならなければならないと自分を責めているのではないか。人々は人間関係に苦しみ、嫌いな人とにこやかに過ごすことが強要され、それどころか好きになることが求められているがゆえに、それができず、しばしば仕事を辞めていく。嫌っている自分を責め、嫌いになってしまう自分は人間として未熟なダメな人間なのではないかと自分を非難しているのではないか。嫌っている自分を認めることができず、ときには自己嫌悪を感じているのではないか。
自分の感情を見つめることができず、自分の感情を表に出すことができない。それはきっと苦しいことにちがいない。そんな苦しい状況を多くの日本人が耐え忍んでいる」