〔ミモレ編集室〕の編集・ライティング講座の2月の課題は「エッセイを書いてみよう!」でした。「自信」をキーワードに自由な形式でエッセイを書いてもらい、編集バタやんと文芸編集者からエッセイの書き方のコツを学ぶという課題でした。メンバーから寄せられたエッセイはなんと65作品。中でも文芸編集者も感心の珠玉の5作品をピックアップしてご紹介します。

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ゆけったさん

クラシック音楽♪、特にオペラが好きで、生活の一部になっています。小学生男子の母 です。自分をさらけ出すソーシャルメディアは苦手。仕事や雑多な用事と、読むこと、 書くこととの両立に悩みつつ、編集室での活動も自分のペースで楽しんでおります。


自宅介護の自信

〜自宅介護の自信〜【自信について】_img0
 

昨年、母が倒れました。

最初の一、二週間は、命が危ないと言われてオロオロ過ごし、病状が落ち着いてからは退院後の準備のためにあたふた過ごしました。

母は私の家のすぐ近くで一人暮らしをしていました。夕食は週何回か私の家に来て食べるという生活が、この10年ほど続いていた中での出来事です。

半身に麻痺が残り、退院後も元の暮らしには戻れないという、主治医の見立て。少し容体が落ち着くと、病院の退院サポート部門から即刻の決断を求められました

「自宅で介護はできますか。できませんか。すぐに決めて、退院後の準備を始める必要があります。」

「自宅介護はできません。」

私は、そう答えざるを得ませんでした。

私の自宅は夫の持ち家で、夫婦と子どもの3人家族ですでにかなり手狭。車椅子で動けるようなスペースはありません。何より、子どもの世話をしながら、仕事をしながら、母を自宅で一人で介護する自信は全くありませんでした。

仕事をしながら、退院後に入居する高齢者施設を探し、母の家の片付けをする日々が始まりました。こんなときに限って、PTAの委員を引き受けてほしいという連絡や、子どもの野球チームの保護者の分担業務などが重なるのです。

費用がリーゾナブルな特別養護老人ホーム(特養)にはなかなか空きがなく、民間で探し始めたものの、かなり遠方でなければ、私と弟が支払えるような金額の施設はありませんでした。他に選択肢がなく、民間での入所手続きを進めていたのですが、そのうちに一つの特養から受け入れ可能だと連絡が来ました。私の自宅から自転車で30分程の場所です。ものすごく近くはないですが、運がよかったとしか言いようがありません。

施設は温かい雰囲気で、運営体制もしっかりしていたので、断る理由はありませんでした。入所が決まってからは、怒涛のように必要な手続きをし、母の家の片づけを進めました。

母の家はいらないものだらけでした。掃除や片付けなどもろくにできていなかったのだな、と日々の忙しさにかまけて、母の生活の現状に全く気が付けていなかったことに自分で嫌気がさしました。特養の個室にも私の自宅にも全くスペースはありません。片付けと言っても、ほとんどのものを処分しただけ。母に残されたものをただただ捨てていく作業は、なかなか心を荒ませるものがありました。終わる気がしない、でも逃げられない。

コロナ禍で、退院まで母には全く会えませんでした。母は失語症になっていて、意思疎通を心配していたのですが、「はい」、「いいえ」は何とか伝えられるようでした。

入所時はとりあえず身一つ、数日後に限られた母の家具や荷物を運び込みました。二度目の緊急事態宣言前だったので、私は荷ほどきの少しの間、施設に滞在を許されました。

母は施設の食事が合わないようでした。病院の方がずっとよかったと言うのです。やっと母が新しい生活場所に落ち着いたものの、また心がチクリと痛みます。家で暮らしていれば、食事くらいは私が好みのものを作ってあげられるかもしれない、もっと気ままに過ごせるかもしれない。でも介護とはそれだけではないのでしょう。施設に入るときには、看護師、栄養士、理学療法士、相談員、介護士といった多くの方とのやり取りがありました。施設で暮らす母はこれだけの人たちに支えられているのだと、感謝の気持ちしかありません。

自宅介護をしている方、過去にしていらした方の経験を見聞きするたびに、胸がザワザワします。自信云々どころか、冷静に考えれば、どうやっても私にやり切れることではないのに、いっぱしに自己嫌悪を感じているのです。私はやってみもせずに逃げたけれど、自宅での介護を選ばれて、家族のお世話をされている方々の日々に心から敬意を表します。

今、高齢者施設は面会ができません。何かおかずを作って、もろもろの嗜好品の差し入れを持って、週一回訪れるのが精一杯。さまざまな手続きがようやく一段落すると、他に選択肢はないくせに、今度はこれでよかったのかと思うばかり。自己嫌悪をやり過ごすために足しげく母を訪れることもできずに、胸の内の悶々はきっとこれからも続いていくものと思います。

 

 

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