〔ミモレ編集室〕の編集・ライティング講座の2月の課題は「エッセイを書いてみよう!」でした。「自信」をキーワードに自由な形式でエッセイを書いてもらい、編集バタやんと文芸編集者からエッセイの書き方のコツを学ぶという課題でした。メンバーから寄せられたエッセイはなんと65作品。中でも文芸編集者も感心の珠玉の5作品をピックアップしてご紹介します。

aikoさん

ワイン、外食、旅行、海外ドラマが大好きです。コロナが収束したら、日本のワイナリー巡りをしたい!と日々妄想をふくらませています。


風の時代の自信

 

林真理子さんが大好きです。
とくに、『野心のすすめ』
私にとって人生を変えた本と言っても過言でなく、新卒で入社した会社を退職し、ミラノへの短期移住のきっかになった本です。

 

この本に出会ったのは20代後半。
これといった努力もせず、人生のどん底にいた頃です。


私は地方の生まれで両親はともに教員。テレビ番組から門限まで、生活全般に厳しい決まりごとがある家庭で育ちました。大学進学で一人暮らしが始まると、その反動なのか、プツンと糸が切れたタコのように遊び呆ける日々を過ごすことになります。就活だけはなんとか踏ん張って、第一志望の会社へ就職するも、忍耐力も根性もなく、即刻窓際社員に。どんどんずり落ちていくのに、どこにつかまっていいかも分からなかった20代。「このまま奈落の底に落ちるんだ」と諦めかけていた頃でした。


■土の時代の自信の持ち方

そんな時、今の夫に出会い、この本をなんとなく渡されました。夫は生粋の林真理子ファンで、キチンと社会と向き合っていた人。見かねて渡したのか、その辺にあったから渡したのかはわかりませんが。

 

本書は健全な野心を持つことの重要性をとき、「今の若いもんは!」的口調で、「低め安定」の若者を叱咤激励する本です。林真理子さんの壮絶な半生が描かれ、その経験をした事がある人だけがいえる厳しい口調で、野心をもって、戦え、死ぬほど努力しろ、その先にしか成功はない!とお尻を叩きます。

低め安定怠惰の極みだった私は、頭から水をかぶったような衝撃を受けて、目が覚めました。「このままではいかん!」と会社を退職し、いざ目標探しにミラノへ旅立ちました(カタチから入る)。年齢ごとにフラグを設定し、その年齢までにそのフラグを掴み取れるよう努力するガムシャラ人生が始まりました。


帰国し、再び就職すると、年収が半分になり新卒扱いからのスタート(31歳)。逆境感にひたりつつ、それからはのめり込むように働き、営業表彰モノはなりふり構わず挑戦しました。40歳までにと誓った資格も取得し、「フラグを掴みとると自信をつける」という正の流れを実感していました。そんな時、「野心のすすめ」を久しぶりに読み返しました。
 

ーーーーーーするとどうでしょう。


おっしゃる通り。なのですが、同時に「これは……土の時代の話である」という違和感が込み上げてきたのです。どうも今読んでしっくりこない。死ぬほど努力したその先にしか成功はないのでしょうか?そもそも成功とは……?林真理子さんの本は、バイブルでした。厳しさと愛を持った先生のような存在だったはず。


「一生エコノミーの人は絶対ファーストの席を目にする事はありませんが、一度でもビジネスにのるとファーストの世界をいやがおうでも目にしてしまうのです」三流につかるな、一流を目指せ!と鼓舞することに始まり、
「平地で遊んでいる人間には一生見えない美しい景色、野心を持って努力した人間だけが知る幸福がそこにはあります。」
てっぺん目指せとしめくくります。

これからは「てっぺんと底」という考え方が崩れていく事を痛感しているので、この通底するヒエラルキーに違和感を感じたのです。私自身、サラリーマンとしてこれまでは職位の呪縛に囚われていましたが、近頃徐々に疑問を感じ始めていました。「職位が上がる事だけが幸せへの道なのか」と自問するにつれ、それだけに縛られていた苦しさを自覚し、私の得意分野や好きな事をもっと深掘りする方が幸せに繋がるのではないだろうかと考えるようになりました。世の中の流れも副業認可は当たり前になりつつあり、さらに複業なんて言葉も登場し社内のヒエラルキーで人を縛らない世界が近づいているようにも感じます。

もちろん現状世の中にヒエラルキーは存在し、一流の世界が素晴らしい事も事実です。でもこれからは一流のモノサシは変わります。林真理子さんはエッセイではこんな言い方をしているけれど、その実、”わきまえない女”として、これまで社会のヒエラルキーと戦い道なき道を切り開いてきた方。小説では、ヒエラルキーの無常をぶちこんだりもしています。『野心のすすめ』では「低め安定」思考に取り憑かれた若者に対する荒治療のためあえて苦言を呈したものと思われます。
 

■風の時代の自信の持ち方

ある意味、フラグをたてて、なにくそ〜と走ってそいつをもぎ取る、ことで自信を得られた土の時代。ではこれからの時代どうやって自信を身につけるのでしょうか?ちょっと自信の意味合いも、頑張り方も変わりそうですね。

私はこの本を読んで、
WE:私たちという意識。
という、箇所が一番ささりました。
「Iから進化したもので、いろいろな事に当事者意識を持つことが新時代の基本姿勢というべきもの。これがさらに進むと"地球"が自我になる」

ち、地球が自我になる!?ちょっとその領域に達する自信はないのですが、これまでIを主役に目標設定をしていたところをWEに変えてみる。これまでに培ったフラグを掴み取るという根性は大切にしつつ、WEの目標に走れるよう、アジャストしていくことが大切なのだと思います。


ところで、真理子様を「土の時代」となじったように聞こえていたらごめんなさい。例え今中島ハルコが宝石に異常な執着を見せていても、もう真理子様のことだから、既に風の時代のヒロインは誕生している気がします。

3月発売新刊エッセイ集。『GO TO マリコ』
 

 

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